櫻井翔、『笑うマトリョーシカ』清家役がなぜここまでハマる? “空っぽの器”になる天才
好感度と清潔感、爽やかさを貼り付けたような完璧な笑顔と聴衆の共感を誘う絶妙な間合いの演説……これらは未来の総理候補と噂される若き人気政治家・清家一郎(櫻井翔)の特徴だが、その全てがブレーンによって緻密に計算された作り物で、その正体が“空っぽの容器”だったら……。
『笑うマトリョーシカ』(TBS系)の不気味さは、取り込んだつもりでいた方が実際は取り込まれていたり、操縦していると思っていた側が実は操られていたりする、そのいびつな人間関係や力関係だ。
自分の意見を持たず、周りの人間の意見を真綿のように吸収しては何色にでも染まり、それを自分のもののように表現できる清家は、周囲の何らかの思惑がある人間にとっては格好の“空っぽの器”であり、清家には本人が意図しないところで相手の支配欲や独占欲を掻き立てる才能がある。
演じる櫻井は、報道番組でキャスターを務めるインテリで機転の利いたコメントや親しみやすい語り口で人気を集めている。この櫻井のパブリックイメージからも本作での若き人気政治家という役柄はこれ以上ないほどマッチしており、キャスティングの妙が光る本作の中でも特に見事な化学反応を発揮している。
高校時代から自分を政治家にするためにサポートし続けてきてくれた政務秘書官・鈴木俊哉(玉山鉄二)をまっすぐに見つめる清家からは、彼への全幅の信頼が滲み出ているかのようだが、官房長官就任後呆気なく鈴木を切り捨てる。実はずっと母親・浩子(高岡早紀)の影響下にあることを感じさせず、あくまで鈴木が清家に必要な仮面を被らせていると思わせながらも、ここぞというタイミングで浩子の意見を優先させていた清家。隙がありそうで実は隙がないようにも思え、意図せず二面性を持ち合わせている清家の不気味さを、櫻井はあの綻びのない笑顔で自然にそつなく見せてくれる。
鈴木との決別時にも、彼との友情や二人三脚についても何の疑いもなく浩子に言われた通りに育んできたことを明かしながらも、それでも「君は僕にとって特別だった」と伝えるあの清家の言葉には、嘘はなかったように思える。それでも私情は捨てて、その先にある叶えるべき悲願に迷いはない。言い換えれば、その悲願に囚われ続けるダブルスタンダードを心痛めずやってのけられる清家の精神性はどこからきているのか。本人の本音はどこにあるのか、それともはなからそんなものは持ち合わせていないのか、視聴者も含め皆が清家に惑わされる。
しかし、この鈴木の尻尾入りについても敏腕ジャーナリスト・道上香苗(水川あさみ)には「切りたくて切ったわけではない」と溢したり、序盤から「これからも僕のことを見ていて下さいね」と囁いたりと、どこまでいっても綻び一つ見せず同じ顔を見せ続ける清家が、マトリョーシカの芯に近そうな部分を道上にだけは覗かせているのも気になる。