ジェーン・バーキンのカリスマ性が光る アニエス・ヴァルダとのタッグ作を“いま”観る意義

 俳優、シンガー、モデル、アクティビストとして、さまざまな分野で長年にわたり光り輝き、いまも多くの人々の憧れであり続けている、ジェーン・バーキン。エルメスの高級バッグ「バーキン」は、現代の女性の生活に合わせるべきだという彼女の要望から生まれたシリーズだが、それが現在最も入手困難なアイテムの一つとなっていることが象徴しているように、ジェーン・バーキンという存在や、その影響力は小さくなるどころか、年々神格化され、伝説的なものとなっている。それだけに、昨年、惜しくも急逝したことで、世界中の多くのファンを驚かせ、深く悲しませることとなったのも事実だ。

 そんなジェーン・バーキンの没後1周忌の追悼として企画されたのが、主演映画2作品のトリビュート上映「ジェーン B.とアニエス V. ~ 二人の時間、二人の映画。」である。そこで今回上映される1988年公開の『アニエス V. によるジェーン B.』、『カンフーマスター!』2作は、こちらもフランス映画界を代表する映画人の一人であるアニエス・ヴァルダ監督が、40歳という節目を迎えたジェーン・バーキンの姿をフィルムに焼きつけた映画だ。そんなヴァルダ監督もまた、2019年にこの世を去っている。

『ジェーン B. とアニエス V. ~ 二人の時間、二人の映画。』ポスタービジュアル ©︎CINÉ TAMARAS / ReallyLikeFilms

 ここでは、上映される『アニエス V. によるジェーン B.』、『カンフーマスター!』の2作を振り返りながら、いま、この時代のジェーン・バーキン主演、アニエス・ヴァルダ監督作品を観る意味について考えていきたい。

 二人の邂逅は、ヴァルダ監督の『冬の旅』を観て感動したバーキンが、監督に手紙を書いたことに端を発している。その手紙が「判読不能」だったことから、何が書いてあったのか気になったヴァルダは公園に彼女を呼び出した。この出来事が、二つの才能が合流するきっかけを生んだのだ。フランス映画界では、このような伝説めいた逸話が少なくない。

 そうやって企画された『アニエス V. によるジェーン B.』は、ファッションアイコンであるジェーン・バーキンを主演に迎えたことから、「アニエス・ベー(agnès b.)」を連想させようとするタイトルの遊びが楽しい一作だ。内容も、ファッション誌やブランドのルックブックをめくっていくように、さまざまな姿で現れるジェーン・バーキンの魅力を味わえる。そして、劇中で何度も絵画作品がモチーフとして登場するように、彼女の実像をも捉えようとする「ポートレイト(肖像画)」としての面も大きい。

『アニエス V. によるジェーン B.』©︎CINÉ TAMARAS / ReallyLikeFilms

 1年もの長期間にわたってジェーン・バーキンを追い、住む家にスタッフが出入りしていたように、この作品は、ときにドキュメンタリーとして進み、また、ときにフィクションとして、いろいろな設定で物語が描かれる。このような映画は、一見すると邪道にも感じられるが、フランス映画界を刷新する映画運動「ヌーヴェルヴァーグ」を支えた立役者でもあったヴァルダ監督にとっては、むしろこれは映画本来の可能性に迫る、求道的な試みであったと感じられる。

 かつてフランスでは、マン・レイ、マルセル・デュシャン、ジェルメーヌ・デュラック、ルイス・ブニュエルなどの才能によって、現在主流となっている劇映画とは異なり、映像そのものによって観客の感性を刺激する「前衛映画」の流れが生まれた。その代表的な一作である『アンダルシアの犬』(1928年)に参加した画家サルバドール・ダリの名が『アニエス V. によるジェーン B.』の劇中で挙がるように、映画という媒体に対する、アーティストたちの自由な発想や挑戦的な試みを、ヴァルダ監督は受け継いでいる。

『アニエス V. によるジェーン B.』©︎CINÉ TAMARAS / ReallyLikeFilms

 そういった視点によるカメラのレンズを、80年代当時のジェーン・バーキンが見つめ返しているという構図には、感慨深いものがあると同時に、不思議な感覚にも襲われるところがある。そしてカメラを見つめる彼女の視線をまた、2024年を生きるわれわれの瞳が受け止めるのである。

 恐いものなしに見えるジェーン・バーキンにとっても、20代から30代、30代から40代へと移り変わる瞬間には不安があったらしい。『アニエス V. によるジェーン B.』は、そんな当時の彼女の揺れ動く感情を見事に映し出している。そして、同時にその姿すらも魅力的に捉えていることで、同じように年を重ねていく観客一人ひとりが勇気をもらえるような内容ともなっている。ここから、まさにジェーン・バーキンがアイコンであり、カリスマ性を持つロールモデルであったことが再認識させられるのだ。

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