シャルロット・ゲンズブールが語る、カメラを向けて変化した母ジェーン・バーキンとの関係

シャルロット・ゲンズブールが語る母との関係

 7月16日、ジェーン・バーキン(享年76)の訃報が世界中をかけめぐった。悲しみと同時にこのタイミングで『ジェーンとシャルロット』(8月4日公開)が完成していたことに、心から「ありがとう!」と思わずにいられない。ジェーンの娘で俳優のシャルロット・ゲンズブールが、母に初めてカメラを向けたドキュメンタリー。貴重な素顔とともに、世代を超えたアイコンである母娘の間にあったぎこちなさや微妙な距離感が正直に映し出され「どんな母娘も一緒なのか!」と共感してしまう。どんな思いで母にカメラを向けたのか。そこにどんな変化が起こったのか。6月末、シャルロットに話を聞いた。(中村千晶)

※本稿は映画の内容に触れています

「私はあなたに気後れしていた」というジェーン・バーキンの言葉

――母であるジェーン・バーキンさんにカメラを向けようと思った、一番の動機を教えていただけますか。

シャルロット・ゲンズブール(以下、シャルロット):年を重ねるにつれてあのような母を持つことが、いかに素晴らしく類まれな幸運だったのかをしみじみと感じるようになったんです。私が知っている母――お茶目でチャーミングで、誰とも似ていないオリジナルなところ――をポートレートとして描きたいと思いました。当時私はニューヨークに住んでいて、母とは物理的にも距離がありました。母にカメラを向けることが母に近づくための口実になるかな、と思ったのです。ちょうど母はツアーで日本に行くことになっていました。日本は母が私にその素晴らしさを教えてくれた場所です。そこから映画をスタートするのはすごくいいアイデアだと思いました。姉のケイト(2013年、46歳で没)も日本のことが大好きでしたしね。

――シャルロットさんは父セルジュ・ゲンズブールさん(1991年、62歳で没)と母ジェーン・バーキンさんの間に生まれ、13歳から俳優として活躍されてきました。映画のなかで「なぜかママに向き合うといつも気まずさを感じてしまう」とおっしゃっています。

シャルロット:私の母との関係は、姉のケイトと母、そして妹のルーと母との関係とも違う特別なものでした。(異父)姉妹のなかでどこか「よそ者扱いされている」と感じていたのです。最初、母も私から非難されるんじゃないかと心配していたようです。実際、最初のインタビュー撮影には大きな緊張感が漂っていました。私はとても多くの質問を用意していたんです。いわゆるジャーナリストがやるようなインタビューではなく、母と娘の間で交わされるパーソナルなものにしようと思っていたので、質問もダイレクトなものでした。それが母に不安を覚えさせたようです。母は攻撃されたと感じて泣きそうになってしまった。結局、母に「こんなことは、とてもできない」と言われ、撮影は2年ほど中止になりました。「もうこのプロジェクトはゴミ箱行きかな」と思っていたんですけど、その後ニューヨークで改めて母と日本で撮影した映像を見たら、全く攻撃的ではないし、美しい映像がたくさん撮れていた。母も「なぜあんなに反応したのかしら。ちょっと大げさだったかも。よく撮れているじゃない」と続きを撮ることができました。

――ジェーンさんから「私はあなたに気後れしていた」という言葉が出たシーンには驚きました。

シャルロット:実は母からこの言葉は、何度か言われていたんです。そのたびに私は「なぜ?」と困惑していました。「自分の娘に対して気後れするってどういうこと? 不思議だな」と。でも撮影を通して最終的に、母が言わんとしていたこともわかるようになってきました。撮影で母は「他の姉妹と違って特別な存在だった。あなたに近づくヒントがなかった」と話してくれました。これまでにも「あなたに驚かされる」「あなたは本当に特別で、他とは違うよね」とは言われていたのですけど。

――母娘の微妙な距離感に共感するという声も多いと思います。

シャルロット:今回、日本のみなさんからインタビューを受けて、母娘の間に恥じらいや距離感、あるいは不器用さを感じているという方が多いことに驚いています。実はフランスでは、このぎこちない母娘の関係は理解してもらいにくいんです。「どうして? 早く抱きしめ合えばいいじゃない」と言われてしまう。逆にお聞きしたいのですが、なぜ日本の母娘関係はそんなにも微妙になっているのでしょう?

――日本がまだまだ男性優位で父権社会であることも関係していると思います。社会のなかで自己実現できなかった母親が、家庭において娘をコントロールしたり、娘に依存したりするケースも多くあります。フランスには「毒親」みたいなものはないのですか?

シャルロット:あります。おそらくあらゆる親子関係の問題が、どこの世界でも存在すると思います。私自身も子どもができたときに、親がしてくれたこと、してくれなかったことを考えたり「自分なら違うやり方ができるんじゃないか」と悩んだりしました。そのとき精神分析医に言われたんです。「親になるということは、たくさんの過ちを犯すということだ」と。「毒親」という表現がされるようになったのは、いまの世代からだと思います。女性の権利が主張されるようになり、今までの典型的な親と子のありかたが批判的に見られるようになってきた。私は自分自身が成長するために、親に対して批判的になることは必要だとも思います。私には父と母というふたつの親のモデルがあります。ただ父に関しては私が若い頃に亡くなったので、寂しい、恋しいという気持ちの方が強く、批判的な目を向ける気持ちにはならないのです。

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