『新宿野戦病院』『地面師たち』で全くの別人に “多面性”を見事に表現する小池栄子の実力

小池栄子の”カメレオン俳優ぶり”に迫る

 やや粗野な建物に集う人たちは雑さが目立ち、何かとドタバタしていて騒がしい。『新宿野戦病院』(フジテレビ系)の舞台となる聖まごころ病院には、そんな印象を持っていた。だが、次第に新宿歌舞伎町という様々な人種と事情を抱えた老若男女が集う街の駆け込み病院、そして地域の病院として機能するようになってきている。そうなる要因のひとつとなっているのが、小池栄子演じるヨウコの存在だろう。

 ある日突然、聖まごころ病院にやってきたヨウコは、13年間軍病院で働いていた過去を持つアメリカ国籍の元軍医。話せる日本語はクセの強い岡山弁で、さらにそこに独特な英語が入り混じる。立ち振る舞いも豪快で、「医者」と言われると胡散臭さが感じられてしまうほどだ。それでもひとたび、緊急の電話が入れば表情が一変。的確な指示と処置で患者を救っていくし、自分の力が及ばず、目の前の人を助けられなかった時は誰よりも嘆き悲しむ。『新宿野戦病院』がのほほんとしたゆるいコメディドラマになりすぎないのは、ヨウコを中心とする“医療パート”がシリアスに働いているからだろう。

『新宿野戦病院』©︎フジテレビ

 ヨウコを演じる小池は、こうした場面の切り替わりに自然と馴染む演技をすることができる。その真骨頂を見ることができるのが、現在Netflixで配信中のドラマシリーズ『地面師たち』だ。

 実際に起きた地面師詐欺事件をモデルとし、土地の所有者になりすました詐欺グループが億単位の高額な金を騙し取ろうとする姿が描かれたこの作品で、小池は偽の地主を手配する“手配師”の稲葉を演じている。偽の地主はデベロッパーのようなターゲットに土地を売り渡す契約の時に必要となる。免許証やパスポートなどの身分証は偽造されたものを使うが、さらにターゲット側は“本人しか知り得ないこと”を質問して最終確認をする。そのために地主本人は契約の場に同席しなければならないのだ。稲葉は、本物の土地の所有者に背格好の似ており、かつ、金に困っているといったような“弱み”がある人物を探してくる役割を担っている。

『地面師たち』©新庄耕/集英社

 地面師グループの中での稲葉はリーダーのハリソン山中(豊川悦司)にも反抗的な態度をとるほど勝ち気。他にもターゲットと交渉する辻本(綾野剛)、法律関係を担当する後藤(ピエール瀧)、土地のリサーチをおこなう竹下(北村一輝)とメンバーには強面な男たちが揃っているが、おそらく口喧嘩をしたら稲葉が勝つだろう。一方、キャスティングターゲットに近づく時の稲葉は、そんな雰囲気を少しも見せない。しおらしく相手の悲惨な状況に共感し、架空の身の上話をしてみせる。しかも現状を悲観しすぎず、前向きな稲葉の様子になぜか勇気づけられるような気さえして、キャスティングターゲットは稲葉にころっと騙されてしまうのだ。

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