『【推しの子】』が描く俳優たちの苦しさ 感情演技に向き合う“大きなリスク”とは?
「いい演技」とは、何によって決まるのか。そもそも、「演技」とは何なのかーー。
放送中のアニメ『【推しの子】』は、上記の問いの答えに肉薄していると感じられる作品だ。これは赤坂アカ(原作)と横槍メンゴ(作画)のタッグによる大人気マンガを原作としたもの。どこまでもフィクショナルなアニメならではの表現で、「演技」というもののリアルに迫ることができているように思うのである。
放送中の“第2期”で描かれるのは、ズバリお芝居の世界のお話。「2.5次元舞台編」として、マンガ家・鮫島アビ子の『東京ブレイド』を舞台化する物語が展開しているところだ。その過程で、登場人物の一人ひとりが「演技」の難しさや奥深さに出会っていく。彼ら彼女らの姿をとおして、私たち視聴者も「演技とは何か?」と考える機会になっているのではないだろうか。
第一七話「成長」は観ていて思わず涙ぐんでしまった。『東京ブレイド』に参加する優れた俳優陣の中、鳴嶋メルトが自身の無力さに打ちひしがれたその先で、たしかな“成長”を見せたからだ。キャリアが浅い彼は、俳優としての自分の未熟さをよく自覚している。だからこそ人一倍の努力を重ね、その証を本番初日に刻んだのである。
私はライターとして数多くの俳優にインタビューをしてきたが、彼ら彼女らの「演技」における方法論はじつにさまざま。多くの者が驚くほど複雑な思考と実践を重ね、私たち観客/視聴者の前に立っている事実があることを私は知っている。もちろん、映像作品と舞台作品とではアプローチが大きく異なったりもするものだ。舞台の場合は俳優自身の生身を観客の前に差し出さなければならず、幕が上がってしまえば逃げ場はない。
ときおり俳優の日常に密着したドキュメンタリーなどで 舞台に挑む様子が見られたりする。いま私たちは『東京ブレイド』の座組の日常を覗くことで、「演技」に挑む俳優たちの不安感や焦燥感を、より身近なものとして体感できているのではないだろうか。普通であればカメラは舞台上にまでは入っていけないため、俳優たちの一挙一動を捉えられているのはアニメーションならではだ。