松本若菜×松村北斗『西園寺さんは家事をしない』はドラマとして何が革新的なのか?

『西園寺さん』は何が革新的なのか?

 夏期ドラマは「家族」について描いた良作が多い。とりわけ、月曜日の『海のはじまり』(フジテレビ系)から火曜日の『あの子の子ども』(カンテレ・フジテレビ系)、『南くんが恋人!?』(テレビ朝日系)、『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(NHK総合)、そして『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)に至るまで、それこそ『西園寺さんは家事をしない』第4話の楠見(松村北斗)が言うところの「普通の家族なんて存在しないんじゃないか」という台詞の通り、それぞれに特殊な事情を抱えつつ、互いを思いやりながら過ごしてきた家族のエピソードを多く目の当たりにする。

 『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』は、岸田奈美さんの原作エッセイ(小学館)を原作に波乱万丈な家族の姿を真正面から描く。『海のはじまり』は、主人公・夏(目黒蓮)と彼がそれまで存在すら知らなかった娘・海(泉谷星奈)が親子になっていく話であるだけでなく、登場人物それぞれの家族模様が興味深い。『あの子の子ども』も、高校生の妊娠を主軸に描きつつ、双方の家族の葛藤を丁寧に描いている。『南くんが恋人!?』も、主人公2人の恋模様以上に、岡田惠和作品らしい、大先生(加賀まりこ)を中心とした「ちょっぴり複雑な家族構成」の大らかさが魅力だ。

 そんな中で、『西園寺さんは家事をしない』は、西園寺さん(松本若菜)と楠見親子の「偽家族」生活を通して「家族って何?」を考える。第4話で楠見が「僕と西園寺さんは、少し家族というものに対して臆病なんだと思います」と言った。それは西園寺さんが抱える「家事に疲弊した母が突然出ていってしまった」というトラウマや、妻・瑠衣(松井愛莉)を失った楠見が1人で家事も育児も完璧にしようと気負いすぎていたことを言っているのだろう。

 だが、一方で、「少し家族というものに対して臆病」になってしまいがちなのは、楠見と西園寺さんだけではないと思った。ライフスタイルが多様化し、男性も女性も同じように働く現代において、家事育児をはじめ「やらなくちゃいけないこと」が山積みの「家族」を作ることに対して臆病になってしまう人は多いのではないかと。そんな現代人の心をちょっとだけ軽くしてくれるドラマが『西園寺さんは家事をしない』であり、松本若菜演じる西園寺一妃なのではないか。

 『西園寺さんは家事をしない』は、『ホタルノヒカリ』などを手掛けたひうらさとるによる同名コミック(講談社「BE・LOVE」連載)を原作としたハートフルラブコメディだ。まず、主人公である西園寺一妃のキャラクターがとてもいい。

 第1話冒頭が、アプリ制作会社で大ヒットアプリを数々生みだす手腕で、同僚からの信頼と尊敬を得ている38歳の独身女性である西園寺さんのキラキラ具合を手際よく示したと思ったら、彼女のハッピーな「家事ゼロ生活」もまたキュートに映し出す。

 続いて「迷った時はワクワクする方」と言って一軒家を購入し、犬を飼い、結婚は諦めたわけではないけれど「やりたいことをやっているだけ」の西園寺さんの姿を「楽しそう」と言う幼なじみの陽毬(野呂佳代)、小西(塚本高史)の姿を通して、西園寺さんの現状を全肯定して始まったところが、本作の革新的な点である。

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