食から観光名所、等身大のパリジャンまで 映画を通じて知る、フランスの文化とその魅力
フランスのお国自慢といってすぐに浮かぶのは、食、ファッション、映画あたりだろうか。もちろんサッカーや乗馬、柔道(実はポピュラー)などスポーツ系でも実力があるものの、一般的にはやはり文化系の国というイメージが強い。そのなかでも映画は、パリが「映画の都」と称されるように、フランス文化と切っても切れない関係にある。
映画の素晴らしいところは、社会を反映する鏡として、映画を通してさまざまな事柄を学べることだ。もちろんフィクションの場合、そこに誇張や嘘が含まれることはあっても。
たとえば食を題材にしたフランス映画は少なくない。近作だけでも『大統領の料理人』(2012年)、『シェフ!~三ツ星レストランの舞台裏へようこそ~』(2012年)、『デリシュ!』(2020年)、『ウィ、シェフ!』(2022年)、『ポトフ 美食家と料理人』(2023年)など、さすがに歴史ある料理文化の国だけある。とくに現代を舞台に、移民の少年たちを調理師として育成する実在のシェフ、カトリーヌ・グロージャンをモデルにした『ウィ、シェフ!』は、美味しく、感動的なヒューマンコメディとして着地しながら、フランス社会における移民の子供たちの困難を浮き彫りにする。「実話」という事実がなおさら説得力をもたらす。
映画を通して、観光名所やフランス人の日常を垣間見ることができるのも、もちろん大きな魅力のひとつ。世界的に大ヒットした『アメリ』(2001年)は、映画の舞台であるパリのモンマルトル地域を観光スポットのランドマークにした。もともと風情あふれる石畳の狭い路地や、サクレクール寺院などが佇む観光エリアだったが、本作のおかげで人気沸騰。とくにアメリが働くカフェ「Café des Deux Moulins(カフェ・デ・ドゥ・ムーラン)」通称「アメリ・カフェ」は、映画公開後のピーク時は1日1200個以上のクレームブリュレが注文されたという。
他にパリのランドマークとして忘れられないのは、エッフェル塔、ノートルダム大聖堂、凱旋門、ルーブル美術館とその逆さビラミッド、オペラ座(ガルニエ宮)などだろう。
フリーターのラッパーが、オペラ教師にスカウトされ天性の才能を発揮するさまを描いた『テノール! 人生はハーモニー』(2022年)のロケ地となったのがこのガルニエ宮である。生徒たちが練習をする、豪華絢爛たる「グラン・ホワイエ」と呼ばれる大広間は、一般人には入れないと思われているが、じつはスペクタクルとはべつにオペラ座内だけをヴィジットできるツアーがある。目の覚めるようなネオ・バロック様式の内装を目にしたければ、このツアーがおすすめだ。
一方、映画関係者のあいだでは、パリを舞台にした映画のポスターにエッフェル塔を入れると、海外でのウケがいいと言われるほど、エッフェル塔はパリの代名詞のようになっている。
もっとも、エッフェル塔は有名でもそれを生み出したギュスターヴ・エッフェルの生涯は、あまり知られていないかもしれない。2年にわたる大工事の末、1889年にエッフェル塔が完成した当時は、「パリの景観を乱す」と、散々な悪評に見舞われたエッフェル氏は苦労人である。労働者階級の出身で受験に2度失敗しながらも初志貫徹、幾多の困難を潜り抜けその地位と名声を得るに至った。そんな彼にじつは若い頃、大恋愛の相手がいた、という事実を元にしたのが、フィクション、『エッフェル塔~創造者の愛~』(2021年)。叶わぬ恋とエッフェル塔が建設されるプロセスをダイナミックに描いた作品で、その舞台裏の苦労についても知ることができる。