『虎に翼』大反響の理由を制作統括に聞く 吉田恵里香の凄さと「裁判官編」の見どころも

『虎に翼』大反響の理由を制作統括に聞く

 放送開始直後から大きな話題を呼び、すでに朝ドラ史上“最高傑作”との呼び声も高いNHK連続テレビ小説『虎に翼』。女性として初めて法曹界へ飛び込んだ寅子(伊藤沙莉)の物語を、多くの人が自分の身に照らし合わせながら固唾をのんで見守っている。この反響を製作陣はどう受け止めているのか。制作統括の尾崎裕和氏に、今後の見どころも含めて話を聞いた。

“ゼロベース思考”の脚本にみる脚本・吉田恵里香の誠実さ

――SNSでも肯定的な意見が散見されますが、まずは反響を受けての率直な思いをお聞かせください。

尾崎裕和(以下、尾崎):脚本家の吉田恵里香さんが本作で描きたいと思っている、この社会で生きている女性たちが過去も現在も感じている辛さや苦労、あるいは喜びを、自分事として受け止めてくださっている方が多い印象です。それはとても嬉しいですし、ありがたく思っています。

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――いわゆる朝ドラファンの方以外からの反響も大きいように感じています。以前、尾崎さんはリアルサウンドの取材で、NHK「よるドラ」に新しい層を引き込みたいと明確におっしゃっていましたが、今回の朝ドラに関してもそういう狙いがあったのでしょうか?

尾崎:革新的な朝ドラを作ろうとしていたわけではなくて。まずは奇をてらわず朝ドラファンの皆さんにもしっかり楽しんでいただけるような作りをベースにしています。おそらく皆さんに新しいと感じていただける部分に関しては、吉田さんの作家性や、本作のテーマでもある「女性たちの物語」を突き詰めた結果で、そこに従来の朝ドラとは少し違う面が生まれて、そこがこれまで朝ドラを観てこなかった方に興味を持っていただけたのかなと思っています。

――従来は描かれていた出産シーンがなく、生理の描写はあるというのがすごく斬新でした。こうしたシーンの取捨選択については、脚本家の吉田さんと話し合いながら行なっているのでしょうか?

尾崎:何度か一緒にお仕事をさせていただき、「吉田さんが描くなら、きっとこういう朝ドラになるだろう」とある程度わかった上で脚本をお願いしているので、こちらから「これは入れましょう」とか、逆に「これは入れない方がいいんじゃないか」とお話しすることはなくて、基本的にはお任せしています。例えば、女性のキャリアを描く上で生理のことに触れるのはごく自然な流れだと思いますし、吉田さんから上がってきた脚本を読み、制作チームも「確かにそれはしっかり描くべきだな」と納得した上で作っています。

――尾崎さんが今、改めて思う吉田さんの脚本の魅力を教えてください。

尾崎:吉田さんの素晴らしいところはゼロベースで思考した上で、脚本を書き上げているところだと思っています。例えば、幼少期がないのは、猪爪寅子の人生において最初の重要なタイミングが女学校を出たところだったから。幼少期に何か人生観を変える大きな出来事があれば当然描くべきだと思いますが、寅子の場合はそうじゃない。結婚か進学かを迫られたあの時から寅子の歩みは始まっているんです。終戦の玉音放送のシーンを省いたのも、個人個人がこの戦争をどう捉えたのか、というところにフォーカスを当てる描き方を選択されたのかなと。

――戦争の期間も通常より短く感じました。

尾崎:ことさらに戦争の期間を短くしようと意図したわけではなく、『虎に翼』の物語で重要なのは第1回で描いた寅子が日本国憲法を読むシーンなので、そこに向かっていく中で結果的に短くなったのかなと思います。

――そもそも第1回の冒頭に日本国憲法のシーンを持ってきた意図とは何だったのでしょうか。

尾崎:日本国憲法の公布は寅子のモデルの三淵嘉子さんもご自身のターニングポイントとして挙げていて。当時、三淵さん以外にもあの文章を読んで「私の人生はここから変わるんだ」と思った法律を学んだ女性の方が多かったそうなんです。そこから女性が裁判官になる道が拓かれた。寅子の人生においても最も重要なポイントだと思ったので、第1回の冒頭にあのシーンを持っていきました。ただ、第45回を観ていただけると、寅子の涙には日本国憲法の公布以外にも、それまでの様々な出来事が渾然一体となっていることが分かると思います。

――尾崎さんが個人的に印象に残った場面や、想定以上に良かったなと思われるシーンはありますか?

尾崎:たくさんありますが、直近の放送でいえば、多摩川の河川敷で撮影した優三(仲野太賀)と寅子が河原で語らうシーンですね。お芝居に仲野太賀さんと伊藤沙莉さんの信頼関係がよく現れていて、すごくいいなと思いました。お二人のマネージャーさんがモニターを見ながら泣いていたのも印象に残っています(笑)。

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