『岸辺露伴は動かない』は『ジョジョ』の新たな可能性も広げた 見事な“スタンド”の脚色

実写『岸辺露伴』は可能性を広げた一作に

 5月10日にテレビドラマ『岸辺露伴は動かない』(NHK総合)の最新エピソードとなる第9話「密漁海岸」が地上波で放送され、5月18日にはPrime Videoでの配信が始まった。

 『岸辺露伴は動かない』は人気漫画家の岸辺露伴(高橋一生)と編集者の泉京香(飯豊まりえ)が杜王町という架空の街を舞台に、人知を超えた超常現象に遭遇する姿を描いた1話完結の怪異譚だ。露伴は人間を本に変えて記憶を読んだり、情報を書き足すことで行動を操ることのできるヘブンズ・ドアーというギフト(特殊能力)の持ち主で、ヘブンズ・ドアーを用いて窮地を脱出する姿がドラマの見せ場となっている。

 今回の「密漁海岸」では、杜王町にオープンしたイタリアン・レストランに向かった露伴と泉がトニオ・トラサルディー( Alfredo Chiarenza )というイタリア人のシェフと出会う場面から始まる。

 トニオは手を見ることで健康状態を見抜くことができる能力の持ち主で、その能力を用いて健康状態を改善する料理を作ることを得意としている。

 レストランが出す水や料理を口にした泉の身体に異常が起こるため、最初は悪意のある攻撃を受けていると露伴は思うのだが、やがて料理の効用で、虫歯、目の疲れ、肩こりといった2人の体調不良がみるみる治っていく様子が、グロテスクなタッチで描かれた。

 そして後半は、トニオの恋人の病気を治す料理の食材となる幻のクロアワビを採取するために、露伴とトニオが密漁に挑む姿が描れるという二部構成となっていたのだが、原作漫画の「密漁海岸」は後半のみで、前半は別のエピソードを繋げたものとなっている。

 『岸辺露伴は動かない』は荒木飛呂彦の人気長編漫画『ジョジョの奇妙な冒険』(集英社、以下『ジョジョ』)のスピンオフコミックスが原作となっており、岸辺露伴は『ジョジョ』第4部に登場したサブキャラの1人だった。

 トニオもまた第4部に登場したキャラクターで、ドラマ前半のエピソードは『ジョジョ』第4部でトニオが初登場した「イタリア料理を食べに行こう」を下敷きとしている。

 おそらく『ジョジョ』の知識がない視聴者に対する配慮から、トニオを紹介するエピソードとして第4部から転用したのだろう。この試みは見事に成功しており、初見の視聴者はもちろん、原作漫画ファンにとっても、そう来たのかと唸らせる見事な脚色となっていた。

 これまでにも、「背中の正面」「ジャンケン小僧」といった第4部で露伴が登場したエピソードをドラマ版にアレンジした回があったが、今回の「密漁海岸」は第4部のエピソードと『岸辺露伴は動かない』の合わせ技で一作に仕上げていたため、ドラマ化の可能性をさらに広げたと言えるだろう。

 ドラマ版『岸辺露伴は動かない』を観ると毎回感心するのは原作漫画に対する作り手の距離感だ。原作漫画のドラマ化というと忠実に映像化する原作準拠路線か、原作を下敷きにして監督や脚本家が新たな世界観を構築するオリジナル路線かに別れがちだが、『岸辺露伴は動かない』は荒木飛呂彦の漫画の世界をドラマに落とし込んでいるという意味では原作準拠だが、細部には大胆なアレンジが施されている。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる