『虎に翼』寅子が挑む“高等試験司法科”とは? 現在の司法試験と異なる法律家への道のり

『虎に翼』寅子が挑む高等試験司法科とは?

 司法科の試験内容を見ていこう。高等試験は筆記と口述試験があり、一次の論文式の筆記試験は7科目で、必須科目として憲法、民法、刑法、商法に加えて、民事訴訟法または刑事訴訟法のいずれかを選ぶ。選択科目は2科目で、行政法、破産法、国際公法、国際私法のほかに哲学や心理学、経済学などから事前に指定する。筆記試験では、六法を参照することができた。二次の口述試験は3科目で、民法または刑法のどちらかは必須とされ、残り2科目を選択できた。筆記試験に通れば、口述試験に落ちても希望により翌年の筆記試験が免除される。

 こうして見ると、受験に必要な修了資格や試験科目は現行の司法試験や予備試験と共通点がある。他方で、筆記試験の免除など現在はない制度もある。ちなみに、出題された問題は「法定地上権ヲ説明スヘシ」(民法、昭和9年)、「天皇ノ国法上ノ地位ヲ明カニス」(憲法、昭和13年)など比較的短文の問題が多かったようだ。昭和13年の憲法の問題は、東京帝大教授で憲法学の権威である美濃部達吉が、天皇を国家の機関と捉える天皇機関説が発端となって貴族院議員を辞職した「天皇機関説事件」の直後であり、受験生は頭を悩ませたに違いない。

 寅子が高等試験司法科を受験した昭和初期と比較すると、現在は法科大学院が定着し、予備試験ルートや法学部から一貫した教育を施す法曹コースが設置されたことで、多様な人材を受け入れ、キャリア選択の柔軟性が増した制度となっている。ただし、昭和初期から改善されているものの、依然として女性法律家の人数は男性より少ない現状だ。『虎に翼』を観て、「我こそは」と法曹の世界に挑戦する人が増えることを期待したい。

参考

中野英郎『近代的司法制度の成立と外国法の影響』
啓明社編輯部編『高等試験行政科外交科司法科分類別問題集 昭和10年版』(啓明社)
堀之内敏恵『高等試験の試験科目「憲法」に関する基礎的研究-試験委員と筆記試験問題-』
国立公文書館デジタルアーカイブ

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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