アクション映画フリーク必見! 『コウイン ~光陰~』の“爽快なバトル”を武道家が解説

『コウイン ~光陰~』を武道家が解説

 相手の拳銃を奪った高城。その拳銃で相手を制圧するかと思ったら、丁寧に分解して投げ捨てる。このシーン、高城が拳銃の扱いに長けた元・自衛官という設定が生きている。しかし、「男ならステゴロ(素手のケンカ)だ!」という熱さもわからなくはないが、とりあえず任務を忘れてしまっているだろう。前作で涙を流してチンピラの嫌がらせを我慢した男と、同一人物だとは思えない。だが、それでいい。リアリティ重視だった前作からの、今作のエンタメ方向への振り切り具合が、大変すがすがしい。男なら、漢なら、細かいことは気にするな。考えるな。楽しめ。

 そして始まる高城VS工作員のステゴロ。これがまた、ステゴロと言っては失礼なぐらいにハイレベルだ。ジャブをかわしながら、高城は相手の戦力を測る。相手はきれいなジャブを打ってくる。ボクシング経験者かもしれない。だが、ステゴロに乗ってくるところを見ると、恐らく、熱くなりやすいタイプだ。そういうタイプは、いい攻撃をもらうと同じ攻撃を返しがちである。

映画『コウイン ~光陰~』予告編 4.12公開

 高城の右ストレートを痛打された相手は、案の定右ストレートを返す。読んでいた高城は、それをヘッドスリップでかわしながらの左ボディから、右ボディと右アッパーのダブルにつなぐ。この高度なコンビネーションを繰り出す際の、体幹もハンドスピードも素晴らしい。演じる出合正幸のボクシングスキルは、相当に高い。

 かつてアクションシーンにおける突き蹴りは、映像映えするオーバーで大振りな打ち方蹴り方が多かった。だが近年、岡田准一に代表される、リアルな格闘スキルで魅せられるアクション俳優が増えてきた。出合正幸のパンチも、一切大振りはしない。それどころか、シャープでコンパクトな本格派ボクサーのパンチだ。

 ……かと思えば、突然派手な後ろ回し蹴りを繰り出したりもする(当たらない)。さすが往年のアクションスター・倉田保昭の元弟子である。

柿崎ゆうじ監督×出合正幸×竹島由夏が語る、『コウイン ~光陰~』で追求した警備のリアル

4月12日に公開される映画『コウイン ~光陰~』の監督を務めた柿崎ゆうじと、W主演の出合正幸、竹島由夏の鼎談インタビューコメント…

 1作目に比べてかなりエンタメ方向に舵を切っているとはいえ、民間警備会社としてのリアリティはきっちり保っている。メンバーたちの目つき、物腰、特殊警棒や無線の扱いなど、何気ないシーンにもこだわりが感じられる。これは、監督の柿崎ゆうじ自身が、実在の警備会社ビーテックインターナショナルの代表を務める、要人警護のプロだからだろう。

 筆者自身も空手選手だった20代の頃、民間警備会社の採用面接を受けたことがある。求人情報に、必要な資格として「武道の有段者」と書いてあったのが面白くて、受けてみたのだ。

 面接してくれたのは、社長本人だった。にこやかな壮年の方だったが、一目見て、「強い人だ……」と思った。姿勢、目の配り、座り方などにもいちいち隙がなく、筆者は面接を受けながらも、「この人とケンカして勝てるかどうか」を計算していた。ごくごく早い段階で、「負ける」という結論に達した。終始ニコニコしてはいるが、目の奥は一切笑っていない。1mmもこちらに心を許していない。「常在戦場」が染み付いている。

 今思い出してもあの社長は、「高城久夫の15年後の姿」だった。おそらく柿崎ゆうじ監督も、あの社長や高城と同じく、「常在戦場の人」だと思われる。「常在戦場の人」が作るアクションが、面白くないわけがない。

 やっぱり結論として、アクションを語るなら『コウイン ~光陰~』は必ず観るべきだ。

■公開情報
『コウイン ~光陰~』
新宿武蔵野館ほかにて全国公開中
出演:出合正幸、竹島由夏、山崎真実、大鶴義丹、伊藤つかさ、榎木薗郁也、中里信之介、野村宏伸
監督・脚本:柿崎ゆうじ
エグゼクティブプロデューサー:柿崎ゆうじ
プロデューサー:古谷謙一
特別協力:ビーテックインターナショナル
制作協力:イマジン、エーチームアカデミー
配給:フルモテルモ
企画・製作:カートエンターテイメント
2023年/93分/シネマスコープサイズ/5.1ch
©2023 Kart Entertainment Co.,Ltd
公式サイト:https://kouin-movie.com

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