『不適切にもほどがある!』は犬島渚の物語だった 時代の狭間で生きる人よ、“寛容”を胸に

『不適切にもほどがある!』は渚の物語だった

 この「寛容」という言葉は「諦めましょう」「我慢しましょう」と言っているようにも聞こえ、もはや「祈り」とすら言える。だが同時に「寛容」は強者にとって都合の良い言葉で、弱者は黙って「我慢しろ」と言っているようにも聞こえてしまう。

 市郎が女性教師の高杉に言ったことや、歌の途中でサカエが言う「寛容と甘えは違います」といった台詞を考慮すると、弱者に対する我慢の強制ではないことは頭では理解できるのだが、歌の時点ではどこか違和感があった。だが、その後の渚と杉山の顛末を観て、作り手の意図が理解できた。

 実の母親にあたる小川純子(河合優実)と再会した渚は、彼女から元気をもらい令和に戻る。謹慎が終わり職場に戻ると杉山はコンテンツライツ局コンテンツマネージメント部に異動となっていた。直接会って謝りたいと思っていた渚だが、フラッシュバックを起こす可能性があるので、会ってはいけないと釘を刺され「パワハラ上司が復職するらしい、吐き気がする」と書かれた杉山のSNSを見せられる。

 その後、渚は杉山と偶然、エレベーターで再会。二人は恋人ができたと近況を語り、杉山は妊活をやめたと渚に言う。杉山は一礼をしてエレベーターを降りるが、パワハラの件には踏み込まなかったため、少しだけ苦い後味が残る。だが、ここで渚は笑顔で「寛容になりましょう♫」と口ずさむ。

 このやりとりを見て「寛容」というメッセージは、アップデートした時代の変化に苦しむ渚のような中間管理職に向けて歌われたものだったのかと納得した。

 多様な解釈ができる『不適切にもほどがある!』だが、筆者は渚の物語として本作を受け止めている。

 古い価値観と新しい価値観の間で調整役を担う影の功労者は様々な場所に存在する。そんな時代の狭間で苦しみ格闘している渚のような人々を勇気づけるために『不適切にもほどがある!』は作られたのだ。

■配信情報
金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』
TVer、U-NEXT Paraviコーナーにて配信中
出演:阿部サダヲ、仲里依紗、磯村勇斗、河合優実、坂元愛登、三宅弘城、袴田吉彦、中島歩、山本耕史、古田新太、吉田羊
脚本:宮藤官九郎
プロデュース:磯山晶、勝野逸未
演出:金子文紀ほか
主題歌:Creepy Nuts「二度寝」(Sony Music Labels)
編成:河本恭平、松本友香
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/futekisetsunimohodogaaru/
公式X(旧Twitter):@futeki_tbs
公式Instagram:futeki_tbs

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