『愛にイナズマ』松岡茉優に訪れる2度の“敗北” 石井裕也のユニークで力強い構成に拍手

『愛にイナズマ』松岡茉優に訪れる2度の敗北

 このたびリリースされるBlu-ray&DVDでは、映像特典としてメイキング、イベント映像集、予告集が付属されている。父・佐藤浩市、長男・池松壮亮、次男・若葉竜也、そして妹・松岡茉優の一家、そしてこの一家に居着くことになる温かき闖入者・窪田正孝。この5人の俳優陣がそれぞれの強烈な個性を相殺することなく「チーム石井」とも言うべき塊となっていくさまを、メイキング映像とともに辿り直したい。

 5人の男女が集まった一軒家は土砂崩れ寸前の崖下に位置し、いつ崩壊しても破綻してもおかしくない状況にある。嵐が来て、落雷によって家は停電となる。Lightning。しかし作者は、ここからこそ映画が始まるのだと言っているのだ。映画とは光線であり、その光はいったん闇を受け入れてからでないと生まれ出ることはない。東京での赤い光が暗室の燈火として花子と正夫の愛の誕生を現像し、焼き付けたのだとすれば、Lightningの一閃はそこに亀裂を入れ、さらにはうごめく5人の人間たちの心の奥をもレントゲンとして照らし出し、あらわなものとする。

 停電となった家で、父・治(佐藤浩市)はロウソクを探し出し、子どもたちのいる居間を照らし出すが、ロウソクのはかなげな光が照らし出すイメージは、観客が暗闇の座席から見つめるスクリーンと同じものと化す。治はもう、このあまりに幸福なイメージを黙って眺めることしかできず、一家団欒を観客のように微笑みとともに受け止めるのみである。この時、治の視線はすでに死者の視線となっている。死にゆく者がこの世の愛すべきイメージに向けて差し向けた視線なのである。花子や正夫が撮影するデジカメやスマホに映らないものが、映画の画面に映り込んでいるし、またその逆もある。つまり、映画館のスクリーンを凝視する私たち観客の視線とは、此岸を黙視する彼岸からの視線でもあるという厳然たる宿命をも、明らかにしているのではないか。

 石井裕也監督が精魂込めて作り上げた強固な構造を有するこの『愛にイナズマ』という映画の魅力を、映像特典とともに味わい尽くしてもらいたい。最後にひとつだけ、筆者の個人的な号泣ポイントをお伝えしておきたいと思う。それは父・治の旧友・則夫(益岡徹)の存在である。近所の海鮮料理店の店主である則夫は物語の終盤で、強烈な個性揃いの登場人物たちをいっきに食ってしまう。わずかな登場時間だけですべてをかっさらってしまうこれほどの脇役の存在を、近年の映画では知らない。益岡徹は現在、NHK大河ドラマ『光る君へ』で、平安時代の実在の左大臣・源正信(920〜993年)を渋味と滑稽味とを合わせてみごとに演じており、注目に値する。本当にすばらしい、貴重なバイプレーヤーである。

■リリース情報
『愛にイナズマ』
4月3日(水)Blu-ray&DVD発売

Blu-ray:5,720円(税込)
DVD:4,620円(税込)

【映像特典】
・メイキング
・予告集
・イベント映像集(※イベント映像集はBlu-rayのみ収録予定)
※商品の仕様は変更になる場合あり

出演:松岡茉優、窪田正孝、池松壮亮、若葉竜也、仲野太賀、趣里、高良健吾、MEGUMI、三浦貴大、芹澤興人、笠原秀幸、鶴見辰吾、北村有起哉、中野英雄、益岡徹、佐藤浩市
監督・脚本:石井裕也
製作:澤桂一、長澤一史、太田和宏、竹内力
エグゼクティブプロデューサー:飯沼伸之
プロデューサー:北島直明、永井拓郎、中島裕作
音楽:渡邊崇
主題歌:エレファントカシマシ「ココロのままに」(ポニーキャニオン)
発売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
©2023「愛にイナズマ」製作委員会

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