『不適切にもほどがある!』の“本当に言いたいこと” 賛否両論の意見こそが物語とリンク

『ふてほど』の“本当に言いたいこと”

 そして「枠にはまらない者は振り落とされる」という悪しき慣習は、令和の今もまだまだなくならない。第2話で市郎の孫・渚(仲里依紗)はテレビ局・EBSに産休明けの仕事復帰を果たすが、過剰な「働き方改革」推進が自分のワークライフバランスには合わずに苦悩する。「誰も置き去りにしないために」進めたはずのSDGsも、やり方を誤れば誰かを振り落とすことになるということを、このエピソードで示唆している。

 このドラマは確かに批判派の意見のとおり、カルチャーギャップによって市郎が起こすアクションを際立たせるために、テレビドラマの手法として令和のコンプラが大袈裟に描かれてはいる。けれど、その「手法」のもっと奥にある、このドラマが「本当に言いたいこと」に目を向けてみれば、要するに「対話の大切さ」「自分と違う立場にある人の気持ちを想像してみることの大事さ」に尽きるのではないか。第1話で、会社の過度なコンプラ強要に困惑する秋津(磯村勇斗)が歌い上げた「話し合いましょう」がすべてなのではないだろうか。

 昭和の「登校拒否生徒への対応」、令和の「形骸化したSDGs促進」を通じて発しているのは、「人を雑に束ねて枠に押し込めようとしないで、一人一人の事情や気持ちにきちんと耳を傾けよう」というメッセージなのではないだろうか。そして、このドラマを観た視聴者の間に巻き起こる賛否両論もまた、「対話」のはじまりとは言えまいか。

 どちらかを全否定、どちらかを全肯定してもしょうがない。昭和にも令和にも難点はあるが、どちらにも、どこかに「一理ある」。「是々非々の構え」が大事だ。

 昭和も令和も、1人として同じ人間はいない。だから、他者を雑に括って理解した気になったり、ラベリングしてはならない。そうした教訓を、昭和の価値観をもとに「人を雑に括る」という行為をいちばんやっている昭和のおじさん・市郎という“装置”を用いて照らし出している。

 昭和世代と令和世代が「対話」により、互いにいいところを吸収して変化していく姿も描かれている。第5話で、テレビ局の過剰なコンプラ意識が転じて番組MCの八嶋智人(演:本人)にGPSをつけて追跡するというエピソードがある。収録後の彼の不審な行動が不倫であると決めてかかるプロデューサー・栗田(山本耕史)に向かって、市郎は「いいの? そんなことして」「あくまで個人の見解だよね、それ。サウナかもしれないし」と言う。市郎にコンプラ意識が芽生えはじめたばかりでなく、令和の人である栗田と価値観が入れ替わるという現象が起こっている。

 市郎とは逆に令和から昭和にタイムスリップしたキヨシは、市郎の娘・純子(河合優実)から「話し相手になってやれば?」と促されて、「登校拒否」のクラスメイト・佐高くんへのアプローチを試みる。ハガキを何枚も書いてラジオ番組に送り、メッセージを届けるというアナログな作業が功を奏し、佐高くんが(物理的にも精神的にも)ドアを開けてくれた。「対話」のはじまりだ。

 そして「対話」というテーマは第5話以降、市郎の「自分との対話」へとシフトしていく。第4話までは「令和社会と市郎」という構図だったが、第5話以降は、市郎と純子の「個の物語」へと一気にシフトした。阪神・淡路大震災で市郎と純子が亡くなってしまうことがわかるのだ。

 市郎は、純子とゆずる(錦戸亮)の結婚に反対していたが、やがて根負けして、神戸でゆずるが営むテーラーで背広を仕立てた。孫の渚を抱くことができ、純子、ゆずると酒を酌み交わして楽しい時間を過ごした市郎は、純子に送られて、1995年1月17日の早朝に神戸駅へと向かう。

 本作の後半は市郎が「娘と自分の“余命宣告”を受けた後、自分と対話し、いかに生きるかを模索する」という物語になっていくようだ。「生と死」。この「逆も真なり」もまた、『木更津キャッツアイ』(TBS系)や『俺の家の話』(TBS系)をはじめ、宮藤官九郎がこれまでに何度も描いてきたテーマだ。

 「必然なんだ。しょうがない。死ぬのがマイナスなんじゃなくて、むしろ大人になった渚っちにこうして会えたことがプラスなんだ」と、市郎は自分に言い聞かせるように言う。生と死、過去と未来がときに並行し、ときに交錯する。

 昭和も令和も、人間の愚かさは変わらない、ということなのかもしれない。形こそ変われど、結局ずっと同じ過ちを繰り返しているのだから。第6話で、令和のバラエティ番組の収録を見学していた純子が放った「38年も経ってこんなもんなのかよ」という叫びが耳から離れない。エピローグに向けて、市郎は自分自身とどんな「対話」を重ねるのだろうか。そして観ている私たちも自問自答してみる。「38年経って、何が変わったのだろうか」。

■放送情報
金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:阿部サダヲ、仲里依紗、磯村勇斗、河合優実、坂元愛登、三宅弘城、袴田吉彦、中島歩、山本耕史、古田新太、吉田羊
脚本:宮藤官九郎
プロデュース:磯山晶、勝野逸未
演出:金子文紀ほか
主題歌:Creepy Nuts「二度寝」(Sony Music Labels)
編成:河本恭平、松本友香
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/futekisetsunimohodogaaru/
公式X(旧Twitter):@futeki_tbs
公式Instagram:futeki_tbs

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