『ブギウギ』趣里が上手いからこそ感じる物足りなさ スズ子と“観客”の関係性を考える
『ブギウギ』で惜しいのは、朝ドラがホームドラマであるという認識と、ステージパフォーマンスが客席の1番後ろまで、端の端まで、エネルギーを、想いを届かせるという根本的な部分との乖離である。
趣里は舞台経験も多く、舞台芸術のなんたるかを知っているはずで、実際、彼女の演技はすばらしい。映画でも主演作『ほかげ』で賞をとるほどの才能と魅力がある。でもそれは彼女の芝居の経験値であって、本格的な歌唱となると、初めてにしてはよくやっていると讃えたいが、実際キャリアのある人たちの表現には届くはずがない。だからこそ、スズ子の物語を日常に寄せていくしかないのだろうか。それはそれでいいと思うのだが、その一方で、客席を楽しませるのだというスズ子の気迫と、それに心打たれるタケシの心境の変化を言い訳のように入れてしまうから、せっかくの物語が上滑りして見える。
客を楽しませることの大事さをスズ子は、大和(蒼井優)や橘(翼和希)からも聞かされていた。そして、ここへ来て、改めてタナケンからも聞かされているわけだが、スズ子と観客の関係性がドラマから見えてこない。
以前、野田秀樹が「演劇という形態は、観ている人がいないとやることができない形態なんです」と日本記者クラブの会見で語っていたが、ステージと観客は本当に切り離せないものなのだ。(※)
スターである前に生活者であるという視点は大層、素敵だけれど、ステージに立つ者の最も大事な部分はセリフで片付けてほしくない。
参照
・ https://stagemap-japan.net/2023/10/17/post-522/
■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、生瀬勝久、小雪、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
語り:高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
音楽:服部隆之
主題歌:中納良恵 さかいゆう 趣里 「ハッピー☆ブギ」
写真提供=NHK
公式サイト:https://nhk.jp/boogie