桐谷健太らが誘う“予想外の結末” 視点によって印象が変わる『坂の上の赤い屋根』の奥深さ

『坂の上の赤い屋根』がもたらす予想外の結末

 市川を演じる斉藤由貴は、さりげない表情の変化や何気ない一言でその場の空気を変えてしまう圧倒的な存在感を持つ女優だが、市川の異物感はとても強烈で、彼女がどう動くかを知りたくて、続きを追ってしまうほど。

 一方、斉藤由貴と同じくらい強烈な存在感を見せているのが、法廷画家として大渕と知り合い、獄中結婚した礼子を演じる蓮佛美沙子だ。ドラマ『今夜すきやきだよ』(テレビ東京系)や映画『女優は泣かない』(2023年)など、さまざまな作品に出演している蓮佛だが、礼子の卑屈な姿を見た時は、彼女が演じているとは気付かず、こんなエキセントリックな女性を演じられるのかと驚いた。

 礼子は原作小説では第二部の語り部となる重要人物の一人。大渕を無罪にするための再審請求を行うために弁護士に掛け合うといった積極的に行動をする女性だが、これまで人生が上手くいかなかったため、強い劣等感を抱えている。思い込みが激しく思考が短絡的な礼子の姿は滑稽だがどこか哀れで、両親と不仲で精神的に孤立している様子から、彼女もまた格差社会の犠牲者であることが伝わってくる。

 二人の他にも、劇中には大渕と青田に関わる人々が多数登場するのだが、どの人物もエキセントリックでどこか病んでおり、隣にいたら不愉快になるため、できれば関わりたくないという人間ばかりだが、完全に他人事だと無視することはできないのは、彼らの痛々しい振る舞いの中に同じように日本社会で生きる自分の姿を見てしまうからだろう。濃厚かつ辛辣な彼らの描き方を見ていると、どうして彼らをそこまで執拗に描くのかとはじめは違和感を抱くのだが、次第に全ての描写は一つに繋がっていたのだと気づき、背筋が寒くなっていく。

 どの登場人物にも表の顔と裏の顔があり、はじめは善良な被害者だと思った人にも意外な側面があることがわかってくる。その象徴が死刑囚の大渕と、彼に洗脳された被害者だと思われた青田彩也子の関係で、話が進むにつれて誰が被害者で誰が加害者なのかどんどんわからなくなっていく。

 全5話という短い尺の中で物語は乱反射し、やがて予想外の結末へとたどり着く。人の数だけ真実は存在し、誰の視点で物事を見て、誰か記述するかによって万華鏡のように変化していく。そのことを文字の力で表現した原作小説に対し、ドラマ版では役者の演技の細かい仕草やふとした表情の変化によって見せていく。誰の視点で物語を追うかによってガラリと印象が変わる本作の感想は、観た人の数だけ存在するのではないかと思う。是非、多くの人と語り合ってほしい。

■放送・配信情報
『連続ドラマW 坂の上の赤い屋根』
WOWOWにて、3月3日(日)スタート 毎週日曜22:00~放送・配信(全5話)
出演:桐谷健太、倉科カナ、橋本良亮、床嶋佳子、工藤美桜、七五三掛龍也、西村元貴、宮崎美子、渡辺真起子、蓮佛美沙子、斉藤由貴ほか
原作:真梨幸子『坂の上の赤い屋根』(徳間文庫)
監督:村上正典
脚本:吉川菜美
音楽:やまだ豊、南方裕里衣
プロデューサー:村松亜樹、橋本芙美、関本純一
制作協力:共同テレビ
製作著作:WOWOW
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/akaiyane/

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