『ゴジラ-1.0』モノクロ版で生じた光と陰 山崎貴の“人工的世界観”が浮き彫りに
仮想空間としての「戦争直後」
おそらく山崎貴にとって、『BALLAD 名もなき恋のうた』(2009年)で描かれるような戦国時代も、『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(2010年)で描かれるようなSF的未来も、『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズで描かれるような昭和30年代の東京下町も、同じ仮想空間として接続している。少なくとも筆者の目には、三丁目の世界は昭和ノスタルジーの発露として生まれた、アミューズメントパークのように見えてしまう。
もちろん、そのアプローチ自体が間違っている訳ではない。リアリズム(生々しさ)を追求することと、映画のエンターテインメント性は比例しないからだ。『ゴジラ-1.0』の舞台設定は、太平洋戦争直後。『永遠の0』(2013年)や『アルキメデスの大戦』(2019年)でも扱われていた時代だが、山崎貴の関心はその時代をヴィヴィッドに再現することではなく、「重巡洋艦高雄を映画に登場させたい!」という、戦艦オタクとしての無邪気な欲望に突き動かされたに過ぎない。
映画ではゴジラと高雄が対決するのは1947年という設定だが、実際には高雄は1946年の時点で自沈しているから、歴史考証としては間違いということになる。だが、それはそれで構わない。山崎貴によって構築された仮想空間としての「戦争直後」という時代に、ゴジラという怪獣をどのように配置していくかが、重要なのだから。『ALWAYS 続・三丁目の夕日』(2007年)の冒頭で、夢のなかでフルCGゴジラが暴れまくるシークエンスがあったが、まさしく同じようなアプローチで、山崎貴は怪獣映画というフィクションを『ゴジラ-1.0』に拡張させたのだろう。
『ゴジラ-1.0』山崎貴の“本領発揮”はまだ先に 虚構vs現実を踏襲したことで生まれた齟齬
山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』は、今、日本で新作ゴジラを作り、打ち勝つことの困難さを思い知らされる。なにせ2023年は、ゴジラの…
2023年11月3日に公開されるやいなや、「演技は過剰だし全てが説明セリフ」という、いつもの山崎貴演出術に多くの批判の声があがった。筆者も実際にその通りだと思う。だが、山崎的仮想空間において、リアリズム演技の方が逆に不自然なのではないか? そのような理解の仕方をして、批判を呑み込みながら鑑賞していた。筆者は『ゴジラ-1.0』を、破格の怪獣映画として高く評価している。
『ゴジラ-1.0/C』が不幸なのは、モノクロ版になることで偉大なる第1作目『ゴジラ』(1954年)と容易に比較されやすくなり、ファンタジーとしての仮想空間ではなく、生々しい「戦争直後」が求められるルックに変貌していることだ。ゆえに「演技の過剰さ」「説明セリフ」という問題も相対的に浮かび上がってしまう。筆者は、主人公・敷島を演じる神木隆之介の芝居がかった演技が、通常版よりもキツく感じてしまった。
ゴジラの熱線によって瓦礫の山と化しているのに、なぜひとつも死体がないのか。多くの負傷者で野戦病院と化しているはずなのに、なぜ病院はあまりにも清潔でほとんど人がいないのか。山崎貴による周到なリアリズムの回避が、モノクロ版ではマイナスに作用している。
モノクロ映像によって強調された禍々しさと、露呈してしまった人工的世界感。脅威の映像体験として筆者は『ゴジラ-1.0/C』を全力でオススメするものの、数々の問題が可視化されていることも付言しておきたい。
参考
※1. https://realsound.jp/movie/2023/12/post-1524273.html
※2. https://www.independent.co.uk/arts-entertainment/films/features/mad-max-fury-roads-george-miller-interview-black-and-white-sequel-mad-max-fury-road-tom-hardy-charlie-theron-black-and-chrome-edition-blu-ray-a7703051.html
※3. https://www.thewrap.com/nightmare-alley-black-and-white-version-explained-guillermo-del-toro-dan-laustsen/
■公開情報
『ゴジラ-1.0/C』
全国東宝系にて公開中
上映劇場リスト:https://theater.toho.co.jp/toho_theaterlist/godzilla_movie2023.html
『ゴジラ-1.0』
全国東宝系にて公開中
出演:神木隆之介、浜辺美波、山田裕貴、青木崇高、吉岡秀隆、安藤サクラ、佐々木蔵之介ほか
監督・脚本・VFX:山崎貴
音楽:佐藤直紀
制作プロダクション:TOHOスタジオ、ROBOT
配給:東宝
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