『葬送のカーネーション』に刻まれた生と死の時間 空想と現実の間で監督は何を描いた?

『葬送のカーネーション』監督が語る

死とは結婚、あるいは結婚式と繋がっている

ーートルコの冷え冷えとした雰囲気が伝わる、青っぽい背景が心に残ります。ロケーションや撮影の苦労は?

ビュルビュル:私が生まれ育った場所なので、どこにどんなものがあるのかは分かっていて、それを求めてロケハンをしたのです。最果ての大地……荒野のようなところですね。どのシーンにはどのロケ地がいいかな、と考えながら2~3カ月ほど車で走り回りました。冷え冷えとした光もないという場所は、かなりなくなってしまったのですが、長い時間をかけて探した各所に実際に腰を下ろして、その土地の感情を感じようという努力をしました。

ーー2人を乗せてくれた夜行トラックが進む道で、向こう側から歩いてくる疲れた様子の難民や、車が立ち往生している人々が出てきますが、トルコの田舎道では日常的にあった光景なのですか?

ビュルビュル:実際に道の向こうから、難民たちがゾロゾロと歩いてくる光景を目撃したわけではありません。この暗闇の世界を表現するため、空想と現実の間を表現するために、そういう演出をしています。本編中でトラックの運転手も言っていますが、人はこの世界にやってきて、またこの世界から去って行くんだ、この世にいる間の時間は特に大きなものではないという話です。この暗闇の世界を詩的な言葉で表現するのが目的であって、本当に難民が道に溢れているということではないんです。

ーーハリメが持ち歩いているスケッチブックには、故郷が戦争に見舞われている絵や、一方で家族らしき一家の絵が描かれています。厳しい祖父に静かな反発を続ける彼女は、祖母のことは好きだったのでしょうか?

ビュルビュル:そういうことですね。お婆さんはハリメにとって唯一残った、心の拠り所のような人でした。故郷の戦争でお父さんもお母さんも亡くなってしまったかもしれない。ところがお爺さんはとても厳しい人で、孫との距離感がある。それは私自身と祖父との関係性を引っ張ってきた部分でもあるんです。祖父は私に厳しく接することで、それが子どもの躾(しつけ)になると思っている人でした。だけど大事に愛することだってできたはずだろうと思うのです。両親がいなくなった後でも自分に暖かい心を寄せてくれないお爺さん、それに対して愛情をくれたお婆さんまでいなくなり、ハリメは大事な存在を失ってしまった。彼女はお婆さんが恋しいんです。

ーー結婚を祝福する人々の姿が作中で2回、出てきます。死を扱った重いテーマの中に、祝福の場面を入れたのはなぜですか?

ビュルビュル:これについてはトルコの文化についてお話する必要がありますね。私たちトルコ人の間では、死は結婚なんだと言われることがあります。聖人の言葉にあった言い伝えみたいなものですが、結婚というのは生命の誕生を象徴するもの。母親の胎内にいて、これから生まれる生命もやがて死に向かって行く。生まれてから死んで行くまでの繋がりの中で人は生きている。結婚と死というコントラスト、そういう部分に私は興味を持っていました。死とは結婚、あるいは結婚式と繋がっている……それは確かにあると思います。そういったものを象徴する場面を入れています。

ーーハリメを残して、フェンスの向こう側にムサ1人だけが振り向かずに歩んで行く場面があります。ムサの魂だけが故郷に帰ったのだとも取れますが、正解は作中で描かれません。観客の解釈に委ねているのでしょうか?

ビュルビュル:お爺さんも認知症……とまで行かなくともボケが出てきているので、何をやっているのか自分でも分からなくなっています。死んだ妻を故郷に埋葬したかったのに、それが出来なかった。遥か異邦の地に妻を埋める時に、自分の感情も一緒に埋めてしまいました。その段階で彼は現世との繋がりを断ち切ってしまったんです。そこから先は観る方に解釈を委ねていて、正確なことは描いていません。ハリメとの関係も、お爺さんの認知のことも、それは分からない。映画をご覧になる方に委ねます。

■公開情報
『葬送のカーネーション』
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、恵比寿ガーデンシネマほかにて全国順次公開中
監督:ベキル・ビュルビュル
脚本:ビュシュラ・ビュルビュル、ベキル・ビュルビュル
出演:シャム・シェリット・ゼイダン、デミル・パルスジャン
海外セールス:Alpha Violet
配給:ラビットハウス
協賛:トルコ文化観光省/トルコ国営放送局
2022/トルコ・ベルギー/トルコ語・アラビア語/16:9/5.1ch/カラー/103分
©FilmCode
公式サイト: https://cloves-carnations.com
公式X(旧Twitter):@masuda8251

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