『大病院占拠』はなぜ他の考察ドラマと一味違うのか? 『XXX占拠』放送前に振り返る
櫻井翔が主演を務める日本テレビ系新土曜ドラマ『XXX占拠』の放送に先駆け、前シリーズ『大病院占拠』の総集編が3夜連続で放送中。『大病院占拠』は空前絶後の考察ドラマとして2023年を代表するエンターテインメント作品となった。毎話放送後にSNSは大盛り上がりだったが、『大病院占拠』の面白さの核はいったい何だったのだろうか。
ドラマ性と考察によるゲーム性が見事に合致
『大病院占拠』は、日本が誇る大病院を鬼の面を被った武装集団が占拠し、そこにたまたま居合わせた休職中の神奈川県警捜査一課強行犯係刑事・武蔵三郎(櫻井翔)が、人質となった病院関係者たちを救うために犯人たちに立ち向かっていく、ノンストップ籠城サスペンス。
今作の魅力は、ドラマ性と考察によるゲーム性が見事に合致した面白さだろう。
鬼たちにはそれぞれ復讐を秘めた悲しい背景があり、残された人質が関係していることが多かった。その懺悔の点が線で繋がり、鬼たちが狙う真の目的が見えてくる。しかし、病院の“裏側”を鬼たちが暴いていくのではなく、その人質の命と引き換えに武蔵に捜査させ、人質には社会的な死が待ち構えている。さらには武蔵にとって身内である県警や県政が悪という立ち位置となり、鬼たちとの善悪が逆転する。ただそれらも、あくまでも国民のことを考えた行動であり、視聴者としてはどちらを悪とジャッジするのか、順序を追って分かりやすく問題提起してくれるドラマ性があった。
面白いのは、武蔵刑事の心が全くブレないことだ。良く言えば正義を貫く、悪く言えば“天然”で、あまりにも身内の暴露に頑張るので鬼側の味方なのではと疑わしくなるほどだが、決して鬼たちに同情することなく鬼退治の姿勢は変えない。そしてその無敵ぶり。「嘘だろ」のボヤキでどんな爆破にも耐えてしまうキャラを、櫻井翔の飄々とした演技で拍車をかける。この絶対的な安心感があることで、鬼たちの問題に集中できる。不死身、絶対的な安心感、そして天然。このシリーズものヒーローに必要不可欠な三大要素が武蔵にあり、続編制作も必然だったと言える。
さらに、そんな武蔵刑事のトラウマ脱却と家族愛を取り戻す物語もあり、1年前のガソリンスタンド事件のトラウマの心労から、妻で心臓外科医の裕子(比嘉愛未)と娘・えみり(吉田帆乃華)とは別居。特に娘から嫌われている。また人質となっている裕子だが、彼女も正義感の強い人だけに、なぜ彼女が人質となっているのかが不可解だった。鬼たちの恨みを知ると、裕子の正義がむしろ鬼側の味方になってもおかしくなく、最後まで鬼たちと繋がっているのかが疑わしかった。愛する人を守れなかった鬼たちと、愛する家族を守るために戦う武蔵。というより、忘れていた家族の愛と絆が復活するのか、それを鬼たちはどう捉えるのか、この人間模様にも注目してほしい。