毎熊克哉、役者として“自信がない”からこそ表現できるもの 充実の2023年を振り返る

毎熊克哉、充実の2023年を振り返る

 2016年に公開された小路紘史監督作『ケンとカズ』の主演で映画界に衝撃を与えて以降、映画・ドラマと途切れることなく出演し続けてきた毎熊克哉。2023年も映画『そして僕は途方に暮れる』『世界の終わりから』の2作品に、ドラマは『キッチン革命』(テレビ朝日系)、『彼女たちの犯罪』(読売テレビ・日本テレビ系)、NHK大河ドラマ『どうする家康』、『セクシー田中さん』(日本テレビ系)と4作品に出演。多種多様な役柄で、また演技の幅を広げた1年となった。その中でも『セクシー田中さん』で演じた笙野は第1話から最終話までの変化に多くの視聴者が魅了された。充実の1年を毎熊はどう捉えていたのか。2023年の終わりに、ここまでの道のり、これからの役者道について、ロングインタビューを行った。(編集部)【インタビューの最後にはチェキプレゼント企画あり】

初めての“挑戦”をした『セクシー田中さん』笙野役

――『セクシー田中さん』笙野浩介役を演じて、いかがでしたか?

毎熊克哉(以下、毎熊):どの仕事もそうですが、やる前はやっぱり不安の方が大きくて。原作があるのでイメージはしやすいけど、あまりやったことのないキャラクターだし、ある意味、誰がやっても笙野になるんじゃないか、という気持ちがあったんです。でも、原作もしっかりしていて、撮影前に送られてきた台本にもブレがなかったので、これはもう自分を信じて飛び込んでみるか、という気持ちで始まりました。笙野として共演者のみなさん、監督、スタッフのみなさんとの時間を過ごしていく中で、「笙野ってこういうヤツかな」と掴んできてからは、「今日はどんなふうになるんだろう」と演じるのがすごく楽しかったですね。

――これだけ作品を重ねられても、やはり不安はあるんですね。

毎熊:僕はそもそも自分に自信がないので、「ちゃんと全うできるのかな」という不安はいつも大きいです。でも、「これは大丈夫だろう」と思いながらやっても、そんなに楽しくないのかなとも思うんです。不安になるのは嫌ですけど(笑)、その感情は持っていたいなとも思っています。

――笙野は物語が進むに連れて徐々に好感度が上がっていくキャラクターでしたが、そのあたりの変化について意識されたことはありますか?

毎熊:本当に何も考えていなかったんですよね。手を抜くという意味ではなくて、今回は「何も考えずにやる」というのをテーマにしていました。なので、もちろん台本は読みますけど、とくに気になるところがなければ何も考えずにセリフを言ってみる。笙野の変化をわかりやすく演じても面白くないなと思いましたし、人は変わるところもあれば変われないところもある、というのが笙野にも田中さん(木南晴夏)にもきっとあるんですよね。なので、「持っているものを変えていく」というよりは、「変われるかもしれないな」という思いを持って演じていました。

『セクシー田中さん』©︎芦原妃名子/小学館/NTV

――あえて何も考えずにお芝居しようと思ったのはなぜですか?

毎熊:僕は結構考えてしまうタイプなんですよ。もちろん考えて良かったこともたくさんあるけど、今回は原作も脚本も演出陣もしっかりしているので、「自分ならこうかな」という考えが邪魔をする気がして。たとえそれが自分なら選ばない芝居だったとしても、それをやって得ることがあるかなと思えたので、“自分の考えは1回どこかに置いておく”という初めてのやり方をしてみました。

――それって、すごい挑戦ですよね。

毎熊:めちゃくちゃ怖かったですね。でも、実際にやってみて「悪くはないな」と思いました(笑)。もしかすると、数年経って『セクシー田中さん』を見返したときに、「ここはノープランすぎたな」と思う場面が見つかるかもしれないですけど、自分が想像もしなかったようなキャラクターになっていけたのは、ノープランのおかげかなと思います。

――『セクシー田中さん』の前の作品『彼女たちの犯罪』で演じられたのがなかなかひどい役だったので、笙野がだんだんといい人になって安心しました(笑)。

毎熊:僕が演じる役は、大抵ひどいヤツなんですよね(笑)。でも僕自身、物語に出てくるひどいヤツを演じるのが好きなんです。実際にいたら嫌なんでしょうけど、子どもの頃から好きなキャラクターが悪役だったりもしました。ひどいヤツって、演じていても面白いし、発見が多いんです。自分の中にあるひどい部分、汚い部分も見つけられるし、そういうキャラクターがいることによって物語が面白くなったりもするので、学べることも多い気がします。

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――『セクシー田中さん』ではダラブッカの演奏シーンもありましたが、かなり練習されたのでしょうか?

毎熊:安田(顕)さんほどではないですが、教えていただいて結構練習しました。笙野自身がダラブッカをやったことがないところからのスタートだったので、笙野と同じ感覚で練習をしていった感じです。すごく楽しかったですね。僕はもともと音楽が好きで、中でもリズムが一番好きなパートなので、プロに教えてもらえる機会が作品の中であったことは、すごくラッキーだなと思いました。

――ちなみにどのぐらい練習されたんですか?

毎熊:ちゃんとマンツーマンで教えてもらったのは7日ぐらいです。でも、家にダラブッカと同じ形で一回り大きいジャンベという楽器を持っていたので、音の出し方は若干違いますけど、それでリズムの練習をしたり、現場のスタジオの待ち時間にも練習したりしていました。

――ドラマは名言が多いと話題になりましたが、毎熊さんの中で響いた言葉はありますか?

毎熊:第6話で田中さんを“地味だけどマニアにウケている映画”に例えるセリフがあって、「これってそうだよな」とは思いました。たとえば学校のクラスで「目立つ人」「なんとなく誰とでも仲がいい人」「地味な人」に分けるとしたら、このドラマは「地味な人」の話だよなと。笙野も地味なタイプだろうし、僕も地味なタイプだし。笙野は失礼なことばかり言っていて、あのセリフも言い方はひどいんですけど、すごくわかるし、「それを人に見てもらおうよ」という言葉がいいなと思いました。

――その週のコラム「『セクシー田中さん』毎熊克哉の“ずっと待っていてくれる”安心感 笙野がどんどん魅力的に」も、とても反響がありました。

『セクシー田中さん』毎熊克哉の“ずっと待っていてくれる”安心感 笙野がどんどん魅力的に

とてつもなく大きくて高くて絶対に越えられないと思っていた壁は、意外にもすんなり飛び越えられてしまった。自分にはちっとも優しくない…

毎熊:このタイトル、本当にその通りだなと思いました。笙野は言葉が下手くそだけど、あのリズムには言葉以上に芯があって、田中さんが出てくるのをずっと待っている。言葉ではない音や踊りにグッとくるのも、このドラマのいいところですよね。

――朱里(生見愛瑠)は田中さんと出会って人生が変わっていきますが、毎熊さんにもそんな方はいますか?

毎熊:思春期に出会ったダンサーの先生の存在は大きいです。見た目が「セクシー」「カッコいい」ということではなくて、人としてカッコいいな、セクシーだな、と初めて感じたんです。そこで出会った一般の人も、その魅力に惹かれて集まっていて、みんなが自分自身のそれを開こうとしていて。おじさんだろうが、おばさんだろうが、カッコいい人はカッコいいし、綺麗な人は綺麗なんだと、初めて感じることができました。

――まさにドラマとリンクしていますね。

毎熊:そうなんですよね。最初はベリーダンスを頑張る話なのかなと思っていたら、描かれていることがすごく深くて。ダンスをやっている、やっていないは関係なくて、どんな人でも“その感覚”に触れることができたら、人生がすごく豊かになるだろうなと思える内容でした。言葉でどう説明すればいいかわかりませんけど、その“説明しがたい感じ”も含めて、この作品をやれてよかったなと思っています。

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