新感覚ドラマ『あれからどうした』はどう作られたのか? 「5月」が描き出す人間の“嘘”
「“嘘”って必ずしも悪いことだけではない」
――第1話でも第2話でも第3話でも、実は身近な人に見られているというシチュエーションが描かれているのも印象的でした。
平瀬:映像が単調にならないように生まれていったアイデアかなと思います。ドラマの構造がハッキリしている企画なので、観ている方が、なるほど、こういうものなんだと理解できた瞬間、途端につまんなくなってしまうんじゃないかと思って。フォーマットを提示した後に、そのフォーマットの中で違うバリエーションを見せることで、手法自体が面白く見えてくるといいなと。第2話で長男の航平(嶋田鉄太)が……(重大なネタバレを含むので省略)、また別の例では、第3話で加賀浩司(三浦誠己)が……(やはり、重大なネタバレを含むので省略)というのもそれの一種だと思うんです。フォーマットの中で次の遊び方を見つけるというか。
――芝居の面で印象的だった俳優さんをそれぞれ教えてください。
平瀬:西田尚美さんと角田晃広さんの掛け合いは印象的でしたね。特に角田さんは、困った状況に対するリアクションの演技が非常に細やかで、お芝居を調整できるメモリが細かいんですよ。それはコントをやっているからだと思うんですけど、どうしたいのかを伝えると分かりましたって、すぐ的確に対応して下さって。使えてないテイクにも面白いところがいっぱいあります。お芝居の目盛りがとんでもない精度で、そこに驚きました。
関:岸井ゆきのさんの食堂での顔ですね。使ってない瞬間もたくさんあるんです。言われたことにちょっとしたリアクションをしていたり、とある人への目線の送り方とか。食事のシーンは会話劇とはいえ、会話だけだと結局持たない部分があって、むしろ会話を聞いている人の表情が、このドラマを面白くしてくれるポイントの一つなんだと、ラッシュを観ながら気づきました。
佐藤:飯豊まりえさんなんかは、ハツラツとして天真爛漫にやっているんだけど、実は、企画がとても分かっている状態のアドリブで、企画を生き生きとしてくれました。久保家の高校生を演じてくれた上坂樹里さんと小学生を演じた嶋田鉄太くんは全く外さなかったですね。特に上坂さんにはびっくりしました。鉄太くんも企画を分かってるんですよね。2人には本当に助けられました。
――今回の『あれからどうした』は年末の放送ということで家族で観るというシチュエーションを想定したりもします。第2話での久保家のように家族だとしても誰もが小さな嘘を抱えているケースも少なからずあって、見方によってはそれを意識づけるような怖さを孕んでいるとも言えます。
佐藤:当初は新しいサスペンスを感じてほしかったんですね。自分の中にこんな宙ぶらりん(=サスペンド)の状態のものもあるんだっていう、それが目的だったんですよ。
平瀬:僕は“嘘”って必ずしも悪いことだけではないと思ってるんです。もちろん、良くない使い方もありますが、“嘘”自体は手段だと思うので。悲しかったり苦しかったりする“嘘”ばかりではないと思うんですよ。時に、“嘘”を通して、この人面白いなとか、かわいいなっていう人間のチャーミングな部分が、見え隠れしてくる。だから、そういうふうに本作を受け取ってもらえるといいなとは思っていました。
――冒頭にあった16本の企画の中には、『あれからどうした』のほかにどのような手法があったのでしょうか?
平瀬:今後、その16本の企画を作っていく可能性が大なので、なかなか言いづらいのですが……(笑)。アイデアは私たちにとっては資産というか。ただ、昨日の夜も企画会議をしていて、やっぱり手法しか出ず、物語の話は全く出ない。物語どうしようってなると、3人で無言のまま30分、みたいな感じになっちゃうので、そういうところで原作を持ち込んでやれたらいいよねとは話しています。新しい企画の始まりは常に映像手法から考えたいというのが大きなポリシーであり、それが私たちの戦い方なのかなと思っています。
佐藤:手法でガッチガチなので、そんなにやすやすと原作が当てはめられないんですよね。そこを一つ克服しないと、「5月」の次の一歩はないと思うんです。さらにもう一歩上に行きたいと思うと、自分たちの出来上がっている手法に、どうやってみんなが魅了される物語を入れられるか。正直言って、僕は毎日それで悩んでいます。それができた時、「5月」は完成に近くなると思う。
――ある種の大衆性というか。
佐藤:変なことを言えば、大量生産ができるということです。僕は過去、3、4年で何百本もコマーシャルを大量生産してきたんですけど、それは方法論があったからなんです。沢山の方法が出来た時、これで大量生産ができる、自分は工場になったなと思いましたね。それがもうちょっとしないと完成しないなと思っています。
平瀬:手法から作るというのが我々のユニークなところなので、そこをもっと研磨していきたいし、観ていただきたいです。「『5月』と言えば何?」と聞かれたら、「手法と表象だよね」とみんなに思ってもらえるようになりたいですね。
■放送情報
『あれからどうした』
NHK総合にて放送
第1話 「虚実の社員食堂」:12月26日(火)23:00〜23:44
第2話「久保家の隠しごと」:12月27日(水)23:00〜23:44
第3話 「制服を脱いだ警察官」:12月28日(木)23:00〜23:44
第1話「虚実の社員食堂」
出演:戸次重幸、臼田あさ美、中島歩、田村健太郎、森田甘路、飯豊まりえ
第2話「久保家の隠しごと」
出演:角田晃広、上坂樹里、嶋田鉄太、西田尚美
第3話「制服を脱いだ警察官」
出演:三浦誠己、酒井若菜、井之脇海、芹澤興人、岸井ゆきの
作・編集・演出:佐藤雅彦、関友太郎、平瀬謙太朗(5月)
音楽:川口義之
演奏:渋さ知らズオーケストラ
撮影:國井重人
照明:鳥羽宏文
音声:大町響槻
音響効果:浅梨なおこ
美術:柴田博英
プロデューサー:大塚安希
制作統括:勝田夏子、土橋圭介、山本喜彦
制作:NHKエンタープライズ
制作・著作:NHK、5月