新感覚ドラマ『あれからどうした』はどう作られたのか? 「5月」が描き出す人間の“嘘”

異色作『あれからどうした』はどう作られた?

 2023年もあとわずか。そんな年の瀬に、観た後に必ず語りたくなる特別集ドラマ『あれからどうした』がNHK総合にて12月26日から3夜連続で放送される。本作を手掛けたのは監督集団「5月」。関友太郎、平瀬謙太朗、佐藤雅彦の3名から成る「5月」は、「手法がテーマを担う」を掲げて新しい作品を生み出している。人間の「表と裏」を暴き出す『あれからどうした』を「5月」の3名はどうやって作り出したのか。

 『あれからどうした』第1話「虚実の社員食堂」では、とある証券会社の社員たちが昨晩の飲み会後の行動を語り合う模様が、第2話「久保家の隠しごと」では、ある4人家族のそれぞれの抱えた秘密を語り合う模様が、第3話「制服を脱いだ警察官」では、警察官たちがプライベートで何をしているかを語り合う模様が、それぞれ描かれている。3話に共通しているのは“嘘”。観ている映像と、登場人物たちが語る内容が食い違っていく様子が、これまでにない映像体験をもたらしてくれる。その独特の制作背景、そして本作に込めた思いをじっくりと聞いた。(編集部)

全員が脚本・編集・監督

第1話 「虚実の社員食堂」

ーー今回の『あれからどうした』は、2021年の正月に佐藤雅彦さんが制作統括の1人である土橋圭介さんにした間違い電話をきっかけにして、翌年の正月に「5月」の3人が土橋さんへ16本ほどの企画を提案したところからスタートしていったということでした。その中の企画の1本として『あれからどうした』がアイデアとして存在していた、その背景をまずは教えてください。

佐藤雅彦(以下、佐藤):我々は、「新しい表象(気持ち)を起こす」ということを目指してきました。当初、制作統括の1人である土橋(圭介)さんに見てもらった企画の16本全部どれも物語やテーマが先にあるものではなく、「こういう手法をやりたい」というものだったんです。その手法には新しい映像体験、新しい気持ちが伴っている。その中でも、『あれからどうした』はほかの企画より2歩ぐらい進んでいて、我々の中では撮り方もなんとなく分かっていたんです。視聴者にとって、耳からの情報と目からの情報が食い違っているドラマを45分間見せられるというのは、なかなかない映像体験です。人間にはなぜか嘘をつく性質があって、自分でも気づけないほどの小さな嘘をついたり、全くの嘘を言ったりと様々です。ドラマを観ていると、この登場人物、言ってる事とやってる事が違うけど、視聴者には、その理由が自ずと分かってしまう、そんなものを作りたいと思ったんです。僕は今の視聴者の映像リテラシーであれば、この『あれからどうした』をすんなり分かってもらえるんじゃないかと思うんですね。耳からの情報と目からの情報が食い違っているにもかかわらず、それをすんなり自分の中で解釈できる、そういう体験をしてもらいたかったんです。

第3話「制服を脱いだ警察官」

――全3話のそれぞれの物語はどのように発想していったのでしょうか?

平瀬謙太朗(以下、平瀬):物語を作る前に、まず、ドラマの主人公となる一団をどのような職業の人たちにしようかという議論がありました。例えば動物園の飼育係とか、ビールの売り子、小学校の先生など。いろいろと案が出た中で、全3話をどういったバランスで構成したら面白いかを、まず最初に決めました。それが決まったら各話の中身を考えていきます。例えば、第1話だったら、証券会社っぽい悩みってなんだろうとか、この人たちがやりそうなことはなんだろうか。特に、いちばん最初に嘘をつきはじめる人物は、視聴者にこの特殊な手法を体験してもらうための練習的な役割も担うことになるので、嘘の中身自体はなるべく分かりやすい方がいい。「浮気ぐらいがいいんじゃない?」とか。第2話では「ここで子供が帰ってきちゃったらどう?」とか、そういった小さなアイデアの積み重ねで物語はできていきました。

――脚本、編集、演出を全て3人で担当しているということですよね?

関友太郎(以下、関):3話を全て3人で取り組んでいます。第1話だったら登場人物が6人いるので、6つのエピソードを3人で同時に共有のドキュメントに書いていきます。打ち合わせはほぼ毎日のようにリモートでやっているんですけど、1つのデータにみんなでアクセスして。

佐藤:共有ドキュメントにカーソルが、同時に3つ走っていて、自分が直したところを勝手に平瀬がいじって、おいおい……なんてこともあります(笑)。

第3話「制服を脱いだ警察官」

――脚本と編集はなんとなくイメージできるのですが、監督が3人いるというのは現場ではどのように俳優陣と接しているのでしょうか?

佐藤:当初は、俳優の方に3人で行ったりもしていたんですけど、さすがにそれは混乱を招くだろうということもありまして、映画『宮松と山下』(2022年)の時からは関が現場で俳優の方と、私と平瀬はモニターの前に構えるようになりました。平瀬は現場を見ていて、僕は現場よりかは、次のシーンを考えていたりします。

関:俳優の皆さんに伝達しに行くのは僕ですね。でも、僕一人の考えというよりかは、モニターに戻った時に3人でいろいろと意見を交わして。

佐藤:「セリフを変えたらどう?」みたいなことを話していますね。

――3人で意見が食い違うことはないんですか?

佐藤:なぜか食い違わないんですよ。出自が同じ大学の研究室ということもあって、散々過ぎるほど議論を交わしてきているので、根本的なところは繋がっているんですね。それは自分でもありがたいと思っています。初めてカンヌ国際映画祭に出した短編映画『八芳園』ができるまでには100案とか200案を出したと思うんですけど、ある日の研究会で、関が「こういうアイデアはどうか」って言った瞬間に、みんなが「それでいこう」って、あれだけ文句がいっぱい出ていたのに、その時はパン!と決まったんです。このチームはこういう風に決めることができるんだと思いました。いいアイデアが出ると、みんな「それ!」となるのは、ずっと続いています。

――ある種、NHKだからこそできた挑戦的手法だとも思います。

佐藤:そうですね。僕が担当している『ピタゴラスイッチ』(NHK Eテレ)も、始める前、説明がつきにくい挑戦的な幼児教育番組だったのですが、なぜか強く共感してもらえた、あれはNHKだからだと思います。『あれからどうした』も3夜連続で放送するということをNHKから提案され、それで視聴者の方々も“あれからどうしたの構造”が理解できたら、楽しめるんじゃないかと思います。

――これまで「5月」としては、短編映画や長編映画を作られてきましたが、テレビの連続ドラマというのは今回が初めてです。

関:『あれからどうした』という手法は、舞台さえ変えていけば物語をいくつも作れる器でもあったので、連続ドラマとしてできたのかなと思います。連続ドラマというフォーマットと今回の手法がいいマッチングだったんじゃないかな。

佐藤:まだ作ってはいないんですけど、実はほかの職種の人たちの物語もできているんです。ただスケールが大きくてできないというような、いろいろな都合で今回の3話になっていて。

――では、将来的に第4話、第5話、第6話と続いていく可能性もあると。

平瀬:やれるフォーマットではあるなと思っています。

佐藤:手法を見つければ、我々は『刑事コロンボ』のような連続ものができるなと思っています。殺人事件が起こって、やっと中盤以降に主人公が出るというようなドラマの作り方ー倒叙という手法ですがーに感銘を受けていまして、ああいった新しい作り方を目指しているんですね。

必要だった“食事シーン”

第1話「虚実の社員食堂」

――正直なことを言ってしまうと、全3話の構成ではなく、1話に凝縮した方がシンプルに美しく見せられるとも感じたのですが。

佐藤:我々もそういう考え方はあったんですよ。一つの手法に1話ということもあると思うんですけど、それは今まで映画でやってきたことなんです。しかし、1つの手法がいろんなテーマを担えることもやってみたかったのです。例えば、象徴的なのは第2話の「久保家の隠し事」で、『ホーム・アローン』のような、ちょっとしたコメディができると思ったんですよね。第3話は、警察官が制服を脱いだ時、その人がどのように社会と向き合えるかというような、社会性を少しだけ感じるテーマなんです。第1話をプロトタイプとして、一つひとつテイストが違ってできるなというのは、複数話で感じたことですね。

――その3つの物語の順番を考えて作っていったと。

佐藤:実はつい最近まで、「久保家の隠し事」が第3話だったんですよ。ただ、コメディとして面白かったので第2話に持ってきたらどうかと。最後に第3話で第1話に近いテイストに戻るところが、視聴者的にも見応えがあるかなというのでそうさせてもらいました。

第2話「久保家の隠しごと」

――3つのエピソードの共通点として、全て食事中の会話から物語が発展していくところがありますが、そこは意識して書かれていますか?

佐藤:すごく意識しています。脚本家の橋本忍さんに影響されているところが大きいですね。橋本忍脚本・黒澤明監督の『生きる』では、お葬式が中心になっていて、そこに人が集まることで回想シーンが始まり、物語が展開していく。それと同じように、回想をするには集まることが大事なんですね。今回はこれを食事に置き換えようと。そこにいる理由があって、「あれからどうした」というセリフから物語が始まる状態を作りたかったんです。

――「ソース取って」というセリフも会話のフックになっています。

佐藤:あれは、私がやりたかったことです。第1話の斉藤和也(中島歩)の嘘の中で、浮気で濡れ場のシーンがあります。でも、話しているのは健全な社食。下着を取るといういやらしいところで、「そこのソース取って」というシーンが入ることで、視聴者は話しているのは公共的な社食だと思い出すようにしたかったんです。いやらしいもので引っ張るのではなく、構造で引っ張っていきたいという現れで、あれはすごくやりたかったことですね。

平瀬:あの社員食堂の調味料のインサートは、会話の流れで撮ってるものもあるのですが、すべての会話の撮影が終わってから、そこだけを別で撮ってるものもあるんです。ソースや醤油、胡椒というように、いろんな人が調味料を取るのを撮影してあって、それは編集しながら的確なところで使うための素材のつもりでした。そこも作り方として面白かったところですね。編集ではどうなるか分からないけど、素材集めをしておこうと。第1話では、それがカッコいい形で決まった、僕も大好きなところです。

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