平井伊都子の「2023年 年間ベスト海外ドラマTOP10」　ディズニープラスの“傍流”が躍進

　リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2023年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、海外ドラマの場合は、2023年に日本で放送・配信された作品（シーズン2なども含む）の中から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクト。第6回の選者は、ロサンゼルス在住のライター・平井伊都子。（編集部）

1. 『メディア王 〜華麗なる一族〜』S4（HBO／U-NEXT）
2. 『ムービング』（ディズニープラス）
3. 『一流シェフのファミリーレストラン』S2（ディズニープラス）
4. 『テッド・ラッソ：破天荒コーチがゆく』S3（Apple TV+）
5. 『BEEF/ビーフ ～逆上～』（Netflix）
6. 『弱いヒーロー Class1』（Hulu ジャパン)
7. 『プラトニック』（Apple TV+）
8. 『ジューリー・デューティ ～17日間の陪審員体験～』（Prime Video)
9. 『リハーサル -ネイサンのやりすぎ予行演習-』（HBO／U-NEXT）
10. 『ザ・モーニングショー』S3（Apple TV+）

　10作品中、Apple TV+が3作品、ディズニープラスが2作品、HBO（U-NEXT）が2作品、Netflixは1作品のみという結果に、選んだ本人が最も驚いている。リスト外にも『バツイチ男の大ピンチ！』や『正義の異邦人：ミープとアンネの日記』、チェ・ミンシクの『カジノ』など秀作が揃い、2023年はディズニープラスの本流以外の作品が躍進した年だった。それを最も確信したのが『ムービング』。韓国ドラマが得意とする、青春学園もの、復讐劇、国家陰謀、肉弾戦、家族愛を手加減なしで融合し、「未来を作る子どもたちを守る」というこれまた韓国ドラマらしいテーマに着地させる。加熱する韓国ドラマの世界配信権争奪戦、高校生たちの友情とも愛憎とも違う感情を見事に描いた『弱いヒーロー』が、シーズン2にあたるClass 2からはNetflixにお引越しというのも驚きの展開だった。

　同じくディズニープラスの『一流シェフのファミリーレストラン』は、忙しないレストランの厨房と呼応するようなスピード感が魅力のドラマだが、シーズン2は緩急をつけて旨味を出す。第7話がワンカット風撮影と豪華カメオで盛り上げた直後、第8話（こちらのカメオも超豪華）で視聴者は、意外なキャラクターが覚醒する瞬間を目撃する。エピソードタイトルは「フォークス」。人生における選択はフォークのように枝分かれしていくが、1秒たりとも無駄にしてはならない。

　2023年3月に『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』（以下、『エブエブ』）がアカデミー賞作品賞を受賞したことで、アジア系移民物語の第1章が終わったような気がした。1月のサンダンス映画祭とベルリン映画祭で上映され、現在アワードレースの先頭集団を走る『Past Lives（原題）』、そして4月に『BEEF/ビーフ ～逆上～』が配信開始になり、A24によるアジア系米国人ナラティブ第2章の幕開けとなった。主演のスティーヴン・ユァンとアリ・ウォンは、一触即発のロードレイジ（あおり運転）から強烈なBEEF（ディスり合戦）に突入し、勤勉で従順なイメージばかりだったアジア系俳優のタイプキャストを覆した。夏に公開された『Joy Ride（原題）』でも、『エブエブ』の娘役ステファニー・スーと、『BEEF』にも出ている『エミリー、パリへ行く』の歌うま女子アシュリー・パークが下ネタコメディに挑戦し、竹の天井を突き破る。白人ジェネレーションX版『BEEF』とも言えるのが、セス・ローゲンとローズ・バーンの『プラトニック』。学生時代の悪友二人組は、40代の大人に課せられる責任や体裁から逃れるように羽目を外し続ける。2014年の『ネイバーズ』の監督＆主演2人の再タッグで、忙しない1日を笑いで終えられる癒しの30分ドラマだった。