『劇場版 SPY×FAMILY』はアニメを超えた究極の完成度 劇場版ならではの“お楽しみ”も
加えて、劇場版ならではのカロリーの高い映像が、大スクリーンで観る意味を与えてくれる。筆頭がヨルによるバトルシーン。今までに相手をしたことのなかったような劇場スペシャルとも言える強敵に、駆け寄ったり飛び上がったり身をかがめたりしながら、迫り切りつけ技を繰り出すアクションの連続には目が上下左右に動く。今回の映画に用意されたIMAXのフォーマットで観ると、上下の動きがよりダイナミックに見えて、ヨルの身体能力のすさまじさを改めて理解できる。
ロイドの方も、アーニャを取り戻すために駆け回り、空まで飛んで危険な場所へと突き進んでいく。さすがは〈黄昏〉といった活躍ぶり。ここで気になるのが、東西を再び戦争に巻き込む恐れを持ったマイクロフィルムを取り戻すという諜報員としての任務が第一で、結果としてアーニャを助けるだけなのかといったロイドの心情だ。
疑似家族を作って要人に接触する「オペレーション(梟)」を別の諜報員に引き継がせる命令を拒絶するため、アーニャを調理実習で優勝させようとしたのは、その方が作戦の成功率が高いからなのか、それともアーニャやヨル、そしてボンドといった家族を失いたくないからなのか。『SPY×FAMILY』が単なるシチュエーションコメディを超えて家族の絆を描く物語へと進化し、深化している流れの中で浮かんでくるこうした疑問について、今一度考えさせてくれる映画になっている。
『SPY×FAMILY』から受ける家族がいっしょにいることの喜び。それを大いに含んでいるという点でも劇場版は完璧だ。
あとは、劇場版ならではのお楽しみがどれだけあるかといった部分。未見の人のために詳細は避けるが、レジェンド級を超えてゴッド級の声優がまさしくゴッドな輝きを見せてくれると言っておこう。それに誘われるようにしてアーニャも声を担当する種﨑敦美とともに、とてつもない姿を見せ、声を聴かせてくれる。そのシーンを観ながら、あなたはポップコーンを頬張れるかという問いも投げかける。もしくは同じような苦悩を味わっている観客に、進むべきか留まるべきかといった決断を迫る。
アーニャを付け狙う2組の軍人を、俳優の中村倫也と賀来賢人が演じて、それぞれに俳優としての顔を思い起こさせないくらい、キャラになりきっているところも見どころだ。いずれおとらぬ名優たちだけに、ロイド役の江口拓也やヨル役の早見沙織といった声優たちに混ざってまるで違和感を覚えさせない演技で、ドタバタと走り回ってマヌケな振る舞いを観せてくれる。キャラ自体も登場から退場までしっかり本筋に絡んでくる。劇場版における完璧なゲストキャラ&ゲスト声優とはまさに彼らのことだ。
本編のキャラもそれぞれに登場して役割を果たす。「黄昏」の上司のシルヴィアもヨルの弟ユーリも姿を見せ、ヨルの同僚のカミラとミリーとシャロンもヨルの心情をざわつかせる役を果たして物語にスパイスを効かせる。フランキーも役に立つような立たないようないつもの役回りで、コメディーリリーフならではの存在感をそれなりに果たす。
そして「夜帷」ことフィオナ・フロストも。ロイド大好きっ娘として鉄面皮の下の恋情を燃やしていて実に愛らしい。だからといってヨルの替わりに「オペレーション(梟)」に参加させる訳にはいかないヤバさも相変わらず漂わせている「夜帷」が、TVシリーズのSeason2のMISSION:36内のエピソード「〈夜帷〉の日常」で見せてくれたような空回りぶりを楽しもう。
そのTVシリーズは、12月23日放送分のMISSION:37「家族の一員」でいったん終わるが、本編はまだ続いており順次アニメ化していってほしいところ。加えて今回のような劇場版も、これまでの本編に挟み込むような形で作っていけるのではないかと、『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』は思わせてくれた。正体を明かせない家族3人を同じ舞台で活躍させるパズルのようなシナリオ作りには苦労しそうだが、それが果たされれば『名探偵コナン』の映画シリーズのように、次はどんな事件が起こるのかにワクワクしていけるだろう。
完璧を超える完璧を目指して、スタッフには是非に次も願う。
■公開情報
『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』
全国公開中
原作・監修・キャラクター原案:遠藤達哉(集英社『少年ジャンプ+』連載)
出演:江口拓也、種﨑敦美、早見沙織、松田健一郎ほか
監督:片桐崇
脚本:大河内一楼
キャラクターデザイン:嶋田和晃
サブキャラクターデザイン:石田可奈
総作画監督:浅野恭司
音楽プロデュース:(K)NoW_NAME
音響監督:はたしょう二
アニメーションアドバイザー:古橋一浩
制作:WIT STUDIO×CloverWorks
配給:東宝
製作:「劇場版 SPY×FAMILY」製作委員会
©2023「劇場版 SPY×FAMILY」製作委員会 ©遠藤達哉/集英社