『あすなろ白書』『若者のすべて』の煌めきは永遠に 木村拓哉に投影されていた作家の個性

『あすなろ白書』『若者のすべて』の煌めき

 『あすなろ白書』と『若者のすべて』のBlu-ray BOXが12月6日に発売された。どちらも1990年代前半にフジテレビで放送されたテレビドラマで木村拓哉が出演しているのだが、今では観られない木村拓哉の姿が刻印された貴重な記録となっている。

 1993年に月9(フジテレビ系月曜21時枠)で放送された『あすなろ白書』は、「あすなろ会」というグループを結成した5人の大学生のキャンバスライフを描いた青春ドラマだ。

『あすなろ白書』©柴門ふみ/小学館 ©フジテレビジョン

 青教学院大学に入学した園田なるみ(石田ひかり)は、苦学生の掛居保(筒井道隆)に恋心を抱くのだが、暗い影を抱えた掛居の気持ちが理解できずに、次第に心が苦しくなっていく。

 物語は2人の恋を中心に、なるみに片想いをしている取手治(木村拓哉)、同性愛者として掛居に対して秘めた思いを抱えている御曹司の松岡純一郎(西島秀俊)、はじめは掛居に片想いをしていたが、次第に松岡に惹かれていく東山星香(鈴木杏樹)たち5人の複雑な恋愛と友情が描かれる。

 放送当時は大学を舞台にしたキラキラとした恋愛ドラマという印象が強かった本作だが、恋愛感情に翻弄されるなるみたちの姿は生々しく、こんなにシリアスな作品だったのかと観返して驚いた。

『あすなろ白書』©柴門ふみ/小学館 ©フジテレビジョン

 また、妙に印象に残るのが、なるみたちが集まるレストランで常に流れている70年代のフォークソング。

 当時は野島伸司が『愛という名のもとに』(フジテレビ系)や『高校教師』(TBS系)といったドラマで、景気が良くて自由だが軽薄な時代だった1980年代の反動とばかりに、1970年代のフォークソングが劇中で流れるメッセージ性の強い物語を書いていた。本作にもその気配は漂っており、バブル崩壊からはじまる日本社会の軋みの予兆を作り手が感じ取り、劇中に込めようとしていたことが、今の視点で観るとよくわかる。

 脚本を担当しているのは北川悦吏子。原作は『同・級・生』や『東京ラブストーリー』で知られる柴門ふみの同名漫画だが、物語の流れや各登場人物の造形は大きく脚色されている。2018年に北川が執筆したNHK連続テレビ小説『半分、青い。』の原型となっている部分も多く、彼女の作家性が色濃く出たドラマだったと言えるだろう。

『あすなろ白書』©柴門ふみ/小学館 ©フジテレビジョン

 何より北川の個性が色濃く出ているのは、木村拓哉が演じる取手ではないかと思う。彼はメガネをかけた優しい青年で、役割は恋のかませ犬という脇役なのだが、とても魅力的な存在として描かれていた。当時「俺じゃダメか?」と言って、取手が後ろからなるみを優しく抱きしめる場面が「あすなろ抱き」と呼ばれ話題となったが、ドラマ上の役割を超えた魅力が、木村が演じる取手には存在した。

 本作の後、木村は北川脚本の『ロングバケーション』(フジテレビ系)で主演を務める。この2作で北川が木村に託した役が、どこか頼りなく見えるが誠実で優しい青年という、今の木村のイメージとは少し外れたものだというのが、今振り返るととても面白い。

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