『ブギウギ』における“おでん屋”の意義 朝ドラにおける憩いの場=“喫茶店”を振り返る

『ブギウギ』における“おでん屋”の意義

 ツヤ(水川あさみ)の死を未だに受け入れられていない中、知らされた六郎(黒崎煌代)の戦死。NHK連続テレビ小説『ブギウギ』のスズ子(趣里)とその父・梅吉(柳葉敏郎)はまるで一筋の光も見えない暗闇をさまよっているかのような気持ちだろう。そんな2人を見守り、支えている人と場所がある。

 そのひとつが、伝蔵(坂田聡)が営む屋台のおでん屋だ。スズ子と秋山(伊原六花)が上京したての頃に入ったそこは、いつしか2人が家ではないところで話したいことがある時に行くところとなった。スズ子が恋に悩む秋山の話を聞いたり、大きな舞台前、気合い入れのため、伝蔵に日本酒を出してもらったり……。

 伝蔵は最初の方こそ、突然やってきたコテコテの大阪弁の若い娘たちの扱いに困り、「大阪弁はきれぇなんだよ」「浮ついた話はきれぇだ」などと言っていたが、だんだんと2人の話に相槌を打ち、ツッコミもするようになったのだから、この大阪娘たちのことを気に入っているのは明らかだ。もともと銭湯屋の娘として、様々な年代の人たちが集っている賑やかな中で育ったスズ子。彼女にとっても見知らぬ土地で出来た、かしこまらず気軽に話せる年上の伝蔵の存在は心の拠り所になったことだろう。

左から、福来スズ子(趣里)、花田梅吉(柳葉敏郎)。 伝蔵の屋台にて。公演後に梅吉と並んでおでんを食べるスズ子。

 梅吉が東京にやってきてからは、おでん屋は男同士の話をする場にもなった。ツヤを亡くした梅吉と女房に逃げられた伝蔵。「妻がいない」という点で分かり合えることが多かった。いつもは強がっていても「自分にもっとできることがあったのではないか」と後悔しているところも一緒だ。「泣いても喚いても嫁はんは帰ってけぇへんど」という伝蔵に向けての言葉は梅吉自身にも刺さるものだったはずだ。でも1人で塞ぎ込んでいるより、自分の気持ちを他人に話した方が整理され、すっきりすることもある。だから今もずっと嘆き悲しんでいる梅吉だが、伝蔵がいなかったらもっと目が当てられない状況になっていたかもしれない。そう考えると、伝蔵のおでん屋は梅吉にとって重要な居場所なのだ。

 近年の朝ドラには、よくみんなの憩いの場として飲食店が出てくる。大抵は喫茶店で、そこのマスターは主人公を見守り、時には相談に乗ることもある。『エール』(2020年度前期/NHK総合)では、裕一(窪田正孝)とその妻・音(二階堂ふみ)が通う喫茶店「バンブー」が登場する。そこを営む夫婦・保(野間口徹)と恵(仲里依紗)は、根詰めて作業をしがちな裕一の体調を気遣い、裕一が何度もおかわりするコーヒーを保が途中から麦茶にすり替えた。だが、その努力もむなしく、裕一が倒れてしまったときには「3杯目からにすればよかった……」と悔やんだ。クスッとしつつ、思わず「そこなのか!?」とツッコんでしまいそうな夫婦のほんわか感は、裕一たちの心を癒していた。

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