水川あさみは偉大なる“ブギの母”だ! 『ブギウギ』で示し続けた、頼れる母親像を振り返る
本作の公式ガイド『連続テレビ小説 ブギウギ Part1』(NHK出版)にて水川は、「ツヤはこれまで苦労したことも多かったと思いますが、そう感じさせない明るさや、たとえ悪いことが起きたとしても、それをはねのける意志の強さ、目には見えない力強さを持っています。花田家や『はな湯』を心の底から愛していて、まるで大きな風呂敷で包み込んでくれるような、懐が深い女性です」と、ツヤのキャラクターと劇中におけるポジションを分析している。
そう、まさにそうだ。ツヤとは“大きな風呂敷で包み込んでくれるような懐が深い女性”である。そしてこれをあらゆる場面で水川は、胆大心小なパフォーマンスによって実現させてきた。趣里や柳葉敏郎らとの笑いあり涙ありの掛け合いは、一人ひとりの視聴者の心に深く刻まれていることだろう。
同ガイドにおいてさらに水川は、ツヤの持つユーモアやエネルギッシュさがスズ子の人格形成に深く関わっているのだと述べており、自身の演じるキャラクターがいかに『ブギウギ』にとって重要な存在であるかを強く意識し現場に臨んでいたことがここから分かる。そして、「私にとって、一日の始まりをどう過ごすかでその日の気分が決まるので、朝ドラの時間はとても大事だと思っています」という水川の言葉は、私たちの心に重くのしかかる。
スズ子の弟・六郎(黒崎煌代)は戦争に取られ、ツヤは危篤状態。それでもスズ子はプロとしてステージに立ち続けなければならない。とくに、ここのところの弱りゆくツヤの姿には見ていられないものがあった。とはいうものの、あれだけ快活な人物だったのだから、演技の転調ぶりが急すぎると視聴者はシラけてしまう。これがフィクションだと分かっているからだ。けれども水川の示すツヤの弱り方は、私たちが日常で目にしたことがあるものだったのではないだろうか。
シーンを紡いでいくうえでの演出に拠るところがこれまた大きいのはもちろんだが、ツヤの変化を演じる水川のペース配分や塩梅といったものが絶妙だったからこそ実現できたのだと思う。これからの私たちはいままで以上に、“スズ子=趣里”の姿に“ツヤ=水川あさみ”の姿を見つけることだろう。それはつまり、『ブギウギ』を観るたびにあの偉大な母の存在を思い出すということでもある。
ついに“ツヤ=水川あさみ”は、偉大なる“ブギの母”となったのだ。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK