『進撃の巨人』のメッセージを解説 エレンとアルミン、ミカサが辿り着いた結末の意味とは
アルミンの共犯と“ありふれた”バカであること
「どこにでもいるありふれたバカが力を持っちまった。だからこんな結末を迎えることしかできなかった」
エレンはそう言って自身を嘆いた。しかし、肝心なのはエレンが高い道徳心を持っていると信じていたアルミンでさえも、同じことを考えたことがあると告白したことだ。そして、原作では事後的に共犯関係になったアルミンが、この時点で自分がエレンに「君に外の世界を教えたのは僕だ」と共犯性を明示する。アルミンの質問は決してエレンだけを責めるものではなく、自分自身も加担したこと(彼もまた大型巨人になったことでマーレの港にいた人々を殺したこと)への自覚を前提として、共に地獄へ向かうために必要な確認作業だったのだ。これらの言葉と意図は、エレンの心を救った。
エレンが人類を犠牲にすることで得られる恩恵(英雄になること、パラディ島を攻撃する国がしばらく生まれないこと)への理解についても、すでに地鳴らしが始まった直後にジャンを中心とした104期生の会話の中で触れられている。ジャンは「俺たちを悪魔だと決めつけて皆殺しにしようとしたばかりに」「これは外の連中が招いた結果だ」と、ある程度の理解を示していたし、その大変な時にコニーは巨人の力を持ったファルコを自身の母親に食べさせようとしていた。アルミンはジャンに「それでも度が過ぎている」と言ったり、コニーに「ライナーたちと新たな争いを生まなくていいのに」と制したりしていたが、結局のところ、人は自分ごとになると世界や他者を気に掛ける余裕がない。それは一つの真実として、『進撃の巨人』の中で描かれてきたことなのだ。その文脈で、エレンは“ありふれた”バカなのである。
そして忘れてはいけないのは、彼はまだ年齢も幼くナイーブだったこと。ミカサに対する未練、生きることへの未練、友達と一緒にいたい願望。ようやく親友に言えた本音は、情けなければ情けないほど彼の本来の人間性を明るみに出していた。大きな力を持ったエレンを神格化させない、むしろ“ありふれたバカ”としたところに作者の意思が感じられる。
何度道に迷っても、“森”を出ようとすること
冷静沈着に描かれ続けたアニでさえ、「取り返しのつかない罪を犯してきた、でも父の元へ帰るためならまた同じことをやる」と告白していたように、自分の大切な人と世界を天秤にかけた時、大きな枠組みで捉える“正しさ”を頭で理解しても優先できない。その心の弱さを人間の真理として本作は否定もせず、肯定もしない。それでも、子供一人の命と引き換えに自分の母親を守ることの正当性をコニーが訴える様子の直後に描かれる、無垢の巨人の襲撃からカヤを守ったガビの姿はより一層光り輝く。そしてガビとカヤを保護したニコロがサシャの父からの教えを胸に「みんなの中に悪魔がいるから、世界がこうなった。森から出るんだ。出られなくても、出ようとし続けるんだ」と説く姿は、アルミンのエレンに対する訴えと重なりながら『進撃の巨人』が提示した一つのメッセージとして強く、私たち視聴者の心に刻まれた。
最終話の後、エンドロールで明かされた未来の様子。そこでは再び戦争が起き、核が投下され、結果的にパラディ島は報復を受けたことが明かされる。歴史は繰り返されるし、戦争はこの世からなくならない。それもまた非情な真実として描きつつ、それでも森を出ようと考え続けなければいけないこと。その一つの解は、なんとエレンが勲章授与式で「未来の記憶」を見て“あの顔”になった直後、アニメのAパートとBパートを区切る“現在公開可能な情報”のコーナーにてすでに提示されていたのだ。『進撃の巨人』が全編を通してアルミンがナレーターを務めていた理由として、最終話のラストで彼が自分の知る限りの体験談を世の人に伝えていく意思を表明していたことから、彼がこの物語の語り手だったことが明かされた。だからこそ、この区切りのコーナーで映し出された手記も彼の意思が反映されたものなのかもしれない。『完結編(後編)』を踏まえた『進撃の巨人』のメッセージ性を振り返る本稿の結びとして、「未来への意志」と題されたその手記を引用しておきたい。
「我々は世界全体が憎む“悪魔の民族”であるとわかった。彼ら、世界の人々は我々“ユミルの民”の根絶を願っている。だが、ただ座してそれを待つ理由などない。(中略)抵抗する努力をやめてはならない。しかし。しかしだ。果たしてその手段とは世界に対し力を示し、恐怖を与えることだけなのだろうか? 巨人の力、彼らの言う悪魔の力をふるう以外に、本当に別の道はないのだろうか?(中略)世界中の人々がお互いを尊重し、話し合うことは本当にできないのだろうか? 今、それが空虚な理想論に思えたとしても、私は考えたい。考えることから、逃げたくない。それが私の追うべき、責務と信じるからだ」
参照
※ https://www.nytimes.com/2023/11/05/arts/television/attack-on-titan.html
■配信情報
『進撃の巨人』The Final Season完結編(後編)
各動画配信サービスにて配信中
原作:諫山創(別冊少年マガジン『進撃の巨人』講談社)
監督:林祐一郎
シリーズ構成:瀬古浩司
キャスト:梶裕貴、石川由依、井上麻里奈、下野紘、三上枝織、谷山紀章、嶋村侑、細谷佳正、朴璐美、神谷浩史、子安武人、花江夏樹、佐倉綾音、沼倉愛美
キャラクターデザイン:岸友洋
総作画監督:新沼大祐、秋田学
演出チーフ:宍戸淳
エフェクト作画監督:酒井智史、古俣太一
色彩設計:大西慈
美術監督:根本邦明
画面設計:淡輪雄介
3DCG監督:奥納基、池田昴
撮影監督:浅川茂輝
編集:吉武将人
音響監督:三間雅文
音楽:KOHTA YAMAMOTO、澤野弘之
音響効果:山谷尚人(サウンドボックス)
音響制作:テクノサウンド
アニメーションプロデューサー:川越恒
制作:MAPPA
©諫山創・講談社/「進撃の巨人」The Final Season製作委員会
公式サイト:https://shingeki.tv/final/
公式X(旧Twitter):@anime_shingeki