『たとえあなたを忘れても』がリアルに描く幸福を手放すことの怖さ 風間俊介はハマり役に
その後、何度も空のキッチンカーに足を運んでしまう美璃は、意を決し沙菜に空のことを教えてほしいとお願いする。美璃の真剣な眼差しに、重い口を開く沙菜。「空が記憶を失くしたのは初めてやないんや。最初は18の時……」と語られたのは、美璃が思いもしなかった、空の4回にわたる記憶喪失にまつわる過去だった。
“空のお隣さん”を自称する沙菜だが、空を見つめる視線には“お隣さん”以上の感情が宿っているようにも感じられる。「普通の人は、過去のことを後悔したり未来を思い悩んだりして、どうしてもクヨクヨしてしまうやろ? 空にはそれがないから」と語る沙菜は、空が決して不幸ではないと自分に言い聞かせているようにも見えた。
「あたしのことは、羅針盤みたいに思ってくれたらいいから」
この言葉に、空がどれだけ救われたことだろうか。美璃との恋路を応援したいと思いながらも、沙菜のあまりにも真っ直ぐな感情に胸打たれてしまった。
お客様への営業に罪悪感を抱きながら働く日々の中、ついに仕事に身が入らなくなった美璃が向かったのは、空との思い出の廃墟だった。神様からのサプライズだろうか、思い出のピアノを奏でる美璃の元に、偶然にも空がやってくる。美璃を“過去に会ったことのある誰か”だと認識した空は、美璃に病気を打ち明け、「好きなもののことはずっと忘れない」と彼自身の“今”について話し始めた。
そんな空に、以前の関係性を聞かれた美璃は「友達です」と答える。切ない、切なすぎる。確かに2人の関係性は「恋人」というラベルがついたものではなかったかもしれないが、互いを思って重ねた言葉や時間は消えていないはず。そんな美璃の思いが通じたのか、2人は「友達」としてもう一度“あの日”をやり直すことになるのだが……。なぜか、心がざわつく。それはきっと、幸福そうな美璃を観ていると、第1話の展開のような「幸福を失う怖さ」を想像してしまうからなのかもしれない。来週放送の第3話では、どうか美璃が報われてほしい。
『たとえあなたを忘れても』の面白さは、幸福を手に入れたことの喜びよりも、手放すことの怖さをリアルに描いている点にある。空との幸せな日々を手に入れたとしても、その温かな毎日がいつ崩れてしまうのかは誰にもわからない。そんな美璃の不安が、画面を超えて観る者に伝わってくるのだ。美璃には笑っていてほしいからこそ、すでに来週の放送が怖い。だがきっと、来週も22時になればテレビのリモコンを手に取ってしまうのだろう。
■放送情報
『たとえあなたを忘れても』
ABCテレビ・テレビ朝日系にて、毎週日曜22:00〜放送
TELASA、U-NEXTにて、見放題配信
TVerにて、放送終了後見逃し配信
出演:堀田真由、萩原利久、風間俊介、岡田結実、畑芽育、松井玲奈、森香澄、丸山智己、須藤理彩、加藤貴子、檀れい
脚本:浅野妙子
プロデューサー:清水一幸、辻知奈美、髙石明彦(The icon)、高橋香奈実(The icon)
演出:大谷健太郎、髙石明彦
音楽:平野真奈、福廣秀一朗
主題歌:由薫「Crystals」(Polydor Records)
制作協力:The icon
制作著作:ABCテレビ
©️ABCテレビ
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