アニメ『薬屋のひとりごと』をさらに楽しめる? 漫画版2種類の違いを検証

『薬屋のひとりごと』漫画版2種類の違いは?

原作をカット、腑に落ちやすい作りの『サンデーGX』(小学館)

 サンデーGX版の『薬屋のひとりごと』は、2017年8月19日より連載が始まった漫画作品。こちらは原作小説のコメディ要素が大幅に削られており、ミステリー・推理ものとしての表現が強調されている。

 なお、サンデーGX版の正式名称は『薬屋のひとりごと ~猫猫の後宮謎解き手帳〜』。副題として添えられた“謎解き手帳”の語句からも、この漫画がミステリーを中心に据えたコミカライズ作品であると伺える。

 サンデーGX版の最たる長所は、腑に落ちやすく、作品として続きが気になるよう再構成されたストーリー展開だ。例えば、アニメ第1話で壬氏が登場する前に「ものすごく綺麗な宦官がいる」「みんなその話で持ち切り」と下女の小蘭(シャオラン)が猫猫に告げるシーンは、サンデーGXで加えられた演出である。

 もちろん壬氏がいきなり猫猫の前に出てきても彼が美麗であることは分かるのだが、「壬氏が後宮中の女性を虜にしている」事実は伝わりづらい。原作小説では「小蘭からついでに聞いた話」として猫猫が美しい宦官の噂にふれているが、噂がどの程度広まっているか、美しい宦官に後宮の皆がどのような感情を抱いているかは不明瞭だ。

 そのため、『薬屋のひとりごと』において一般的な下女の代表として描かれている小蘭から猫猫に壬氏について伝えるシーンを入れることで、「後宮の女性がみな壬氏にぞっこんである」ことをわかりやすく伝える工夫をしたのだろう。

 また、サンデーGXの漫画は演出を加えるだけではなく、大胆にカットしている。カットする代わりに登場人物に要約的な言葉を話させ、読者の腑に落ちやすい構成に変更しているのだ。

 アニメ第3話で放送された芙蓉妃の「幽霊騒動」エピソードの最後は、そんなサンデーGX版の強みが発揮された場面である。原作では長尺で記載されており、ビッグガンガン版でも過去の妓女の事例と合わせて7ページにわたって描かれた「芙蓉妃が夢遊病のふりをした理由」を、サンデーGX版はわずか3ページで説明したのだ。

 しかし、サンデーGXでは原作の表現を大幅に削った代わりに玉葉妃(ギョクヨウヒ)が「病を装うことで純潔を守った」と趣旨を要約した言葉を発するため、読者側としては3ページのみでも十分理解できる。

 『サンデー』といえば『名探偵コナン』を代表作として有する推理ものに長けた媒体であり、物語の謎を読み手にわかりやすく明かす技術には事欠かない。猫猫と宮廷の人物のやり取りを楽しむ一方で、後宮の謎をわかりやすく理解したい人にはサンデーGXの漫画が適しているだろう。

 端麗な作画で原作小説の内容を忠実に再現しながらラブコメ要素を追加した「ビックガンガン版」と、演出のカットや挿入を大幅に行ってミステリー作品としての魅力を強調した「サンデーGX版」。どちらも『薬屋のひとりごと』の原作小説やTVアニメとはひと味違う演出や構成によって登場人物たちを輝かせており、2種の漫画それぞれが本作の人気を高めているのは間違いない。

 そしてアニメでは猫猫や壬氏に声が吹き込まれ、キャラクターたちがより一層生き生きと笑い、怒り、時々恥じる。

 加えて、猫猫や壬氏のギャグシーンで用いられる二頭身の「ちびキャラ」作画はアニメならではの特徴であり、不穏な雰囲気が漂うこともある本作を明るい作品として仕上げるのに非常に役立っているのだろう。

 どちらの漫画を読んでいてもアニメはまた違った面白さがあるだろうし、アニメを観ている人が漫画を読んだからといって、恐らく本作の魅力すべてを把握するのは難しい。

 原作小説、漫画2種、アニメ……、と多様なコンテンツ展開を見せる本作は、複数の媒体にふれるほど、自分の中での味が深まっていくのかもしれない。

参照

https://twitter.com/minozy_k
https://herobunko.com/news/7250/
https://herobunko.com/news/6698/
https://shogakukan-comic.jp/book-series?cd=46804

■放送情報
『薬屋のひとりごと』
日本テレビ系にて、毎週土曜24:55〜放送
各種配信プラットフォームにて、放送終了後順次配信
キャスト:悠木碧、大塚剛央、小西克幸、種﨑敦美、石川由依、木野日菜、甲斐田裕子、潘めぐみ、小清水亜美、七海ひろき、斉藤貴美子、家中宏、赤羽根健治、久野美咲、かぬか光明
ナレーション:島本須美
原作:日向夏(ヒーロー文庫/イマジカインフォス刊)
キャラクター原案:しのとうこ
監督・シリーズ構成:長沼範裕
副監督:筆坂明規
キャラクターデザイン:中谷友紀子
色彩設計:相田美里
美術監督:髙尾克己
CGIディレクター:永井有
撮影監督:石黒瑠美
編集:今井大介
音響監督:はたしょう二
音楽:神前暁、Kevin Penkin、桶狭間ありさ
アニメーション制作:TOHO animation STUDIO、OLM
製作:「薬屋のひとりごと」製作委員会
©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会
公式サイト:kusuriyanohitorigoto.jp
公式X(旧Twitter):@kusuriya_PR

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