素人すぎる敵が素晴らしい! 『イコライザー THE FINAL』は真の「君たちはどう生きるか」

『イコライザー』は「君たちはどう生きるか」

 そして、本作『イコライザー THE FINAL』である。上映時間は驚きの109分。何かと上映時間が長い最近のトレンドに逆らうようだが、これは本作が過去作より研ぎ澄まされ、洗練された結果だと言っていいだろう。驚くほどテンポが良く、なおかつ前述したような『イコライザー』の個性を押さえている。もちろん、単なる繰り返しにもなっていない。アクションはよりタイトかつスピーディーに、マッコールさんは接触と同時に対象を破壊する。さらにドラマ面ではマッコールさんの葛藤という新境地へ踏み込んでいく。そして個人的に一番素晴らしいと思ったのは、敵がかつてないほど素人であることだ。この点が本作をシリーズの中でも際立った映画にさせている。

 1作目の敵はロシアの特殊部隊上がりのマフィアで、2作目はアメリカ政府の工作員だった。どちらも戦闘のプロである。しかし本作の敵はイタリアンマフィアで、極悪人だが戦闘においては素人。彼らの戦闘力が、どう考えてもマッコールさんと釣り合っていないのだ。マフィアが悪いことをすればするほど、彼らが迎えるであろう惨劇に思いを馳せ、意地悪なニヤニヤが止まらない。「そんなことしたら、殺されますよ!」「絶対にその人(マッコールさん)を怒らせちゃいけませんよ!」とケンドーコバヤシみたいな口調で言いたくなってしまうのだ。監督も、その暴力の非対称性を分かっているのだろう。彼らが重要な局面で呑気にメシを食べるシーンなんて最高だ。「こいつら死んだぁ」と思うこと必至である。

 これはシリーズを通じて、マッコールさんの常軌を逸した強さを観客が認知している3作目だからこそできる芸当でもある。それでいて、このマフィアを歯ごたえのない単なる小悪党ではなく、思想面でマッコールさんが戦うべき相手として釣り合うようにしている点が上手い。彼らが口にする「オレがやらなくても、どうせ誰かが同じ悪いことをやるさ」というセリフは、まさにマッコールさんが戦うべき思想だ。この思想だけで、彼らはマッコールさんが手を下すべき敵として成立する。

 本作には『イコライザー』シリーズの魅力がしっかりと詰まっているし、なおかつ3作目だからこそ発生する新たな魅力もある。激しい暴力描写が炸裂するが、作り手の観客に対する真摯な姿勢は変わらない。震えるほど恐ろしいマッコールさんの仕事は、今後の人生の糧になるはずだ。マッコールさんの生き様を見て、あるいは悪党の死に様を見て、自分がどのように生きるべきか考えてみてほしい。そう、これぞまさに真の「君たちはどう生きるか」なのである。

■公開情報
『イコライザー THE FINAL』
全国公開中
出演:デンゼル・ワシントン、ダコタ・ファニング、デヴィッド・デンマン
監督:アントワーン・フークア
脚本:リチャード・ウェンク
製作:トッド・ブラック、ジェイソン・ブルメンタル、デンゼル・ワシントン、アントワーン・フークア、スティーヴ・ティッシュ、クレイトン・タウンゼント、
アレックス・シスキン、トニー・エルドリッジ、マイケル・スローン
配給:ソニー・ピクチャーズ エンターテインメント
原題:The Equalizer 3
公式サイト:https://www.equalizer.jp/

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