素人すぎる敵が素晴らしい! 『イコライザー THE FINAL』は真の「君たちはどう生きるか」
ロバート・マッコール(デンゼル・ワシントン)……否、マッコールさんは、かつてはアメリカ政府の工作員として働いていたが、妻の死によって業界を引退、とあるホームセンターに勤めながら平穏な生活を送っていた。しかし、近所で幅を利かせるロシアンマフィアの悪行を目撃し、マッコールさんは秘めたるスキルを解放。ハイライトが消えた目で、チンピラ軍団を惨殺、関連会社のタンカーを爆破、ホームセンターにカチコミに来たマフィアの精鋭戦闘部隊も皆殺しにした。ついでにロシアに飛んで、組織のボスも殺害。すべてを葬ったマッコールさんは、自分のスキルを世のため人のために活かすため、悪を裁く「イコライザー」として生きることを決意する。ここまでが『イコライザー』(2014年)のあらすじだ。
そして本作『イコライザー THE FINAL』(2023年)は、あの決意から数年後の物語である。マッコールさんは相変わらず悪と戦っていた。今日もイタリアでマフィアを全殺しにしたが、思わぬ形で手傷を追う。迷いと油断があった。実は最近のマッコールさんには、自責の念が生まれていたのである。「やりすぎではないだろうか? 本当に正義をなしているのか?」負った傷のダメージは深く、マッコールさんは逃走中に意識を失う。しかし目覚めたマッコールさんを迎えたのは、優しい眼差しの町医者だった。明らかに銃で撃たれた傷を見ながら、町医者はブラック・ジャックばりの粋な計らいで、詮索せずに治療にあたり、マッコールさんは一命をとりとめる。助かったマッコールさんは傷ついた体と心を癒しながら、その町で暮らすことになった。町は小さくて不便も多いが、美しく、何より心優しい人々が住んでいる。マッコールさんは人を殺すこと以外はイイ人なので、すぐに町の人々と打ち解けた。久しく忘れていた穏やかな日々……が、そんな町をブッ壊してカジノを建てようとする、極悪イタリアンマフィアの魔手が迫る。よせばいいのに、マッコールさんの目の前で次々と悪行を働くイタリアンマフィア。そして案の定、マッコールさんの目から再びハイライトが消えていく……!
大ヒットシリーズ、堂々の完結である。『イコライザー』は、いわゆる“ナメていた相手が殺人マシーンだった映画(©︎ギンティ小林さん)”の中でも特異な位置にある作品だ。本作は間違いなくアクション映画である。勧善懲悪である。作りは定番中の定番だが、その見せ方がものすごく変わっているのだ。
同シリーズではデンゼル・ワシントン演じるマッコールさんの活躍を描くわけだが、マッコールさんと悪漢の格闘シーンは存在するが、強烈に印象に残るのは、実際の格闘シーンよりもマッコールさんが遺した「痕跡」の描写である。たとえばマッコールさんによって、既に倒されて放置された悪人の死体、何かされてトイレから帰って来ることができなくなった人のサングラス、唐突に爆発するタンカー……何をどうやってそうなったかは分からないが、とにかくマッコールさんが暴れた「痕跡」だけを見せる。このスタイルが本作を特別な1作にした。マッコールさんが戦うシーンがないからこそ、その強さが表現されているのである。剣豪の境地みたいだが、これは名優デンゼル・ワシントンという稀代の名優の力だろう。
一方で、同シリーズは非常にメッセージ性が強く、人間ドラマとしての側面も強い。メッセージ自体はシンプルだ。「不正を憎み、正しいことをしよう」である。悪いことをする人のところには、マッコールさんがやってくる(なまはげである)。一方で正しく生きようと頑張る人たちには、必ず良いことがあるのだ。シリーズの1と2では、どちらもささやかな夢に向けて努力する人物が登場する。そしてマッコールさんは彼らに対して時に厳しく、時に優しく接するのだ。特殊な人間が、ただ悪を成敗するだけではなく、平凡な人々に「頑張ればイイこともある」と説いて回る。ドラマもしっかり仕上げてあるのだ。もちろん、そこにはある種の説教くささもあるが、それが魅力になっているのである。これもデンゼルだからできることであり、同シリーズの個性だろう。デンゼルの説教なら受けてもいい。