吉浦康裕監督が考えるAIと人間の共存 『アイの歌声を聴かせて』制作後に心境の変化も

吉浦康裕監督が考えるAIと人間の共存

 2023年はどこも生成AIの話題で持ち切りだ。昨年末から急激な進化を遂げ出したAIは日常生活レベルで身近なものになり、社会はこれをどう受け止めればいいのか、期待と不安がないまぜになるなか、AI脅威論も台頭している。

 『イヴの時間』や『アイの歌声を聴かせて』など、人間とAIの関係をアニメ映画で描き続けてきた吉浦康裕監督も、現在のAIの進化に関心を寄せる一人だ。アイザック・アシモフの小説に大きな影響を受けたと公言する吉浦監督は、AIの急激な進化をどう考えているのか、自身の作品作りの哲学とともに、今のAIに対する考えを聞いた。

AIは人間とは異なるからこそ素晴らしい

吉浦康裕

――吉浦監督がAIと人の共存の物語を作ってきた動機はなんでしょうか?

吉浦康裕(以下、吉浦):AIを敵として描くわけでも、ベタベタに友達のように描くのでもなく、その中間が好きなんです。幼少期からアイザック・アシモフの描く絶妙なロボット感が好きでした。ロボットはロボットのロジックで動いているんだけど、人がそこに勝手に感情を読み取って誤解し、そこにドラマが生まれるような。そういうロボット観は意外にもこのジャンルの王道ではないような気がするんです。他にも、ロボットを限りなく人間と同一視して、人と同じように接するべきという考えや、ロボットが感情的な理由で人になりたがるのもあまり好きじゃないんです。僕はロボットやAIはむしろそのままでいてほしい。人になりたがるというのは、まるで人間がロボットやAIの完全上位互換と言っているような気がして。そこは別の素晴らしい存在としていてほしいんです。

――人には人の良さがあり、AIにはAIの良さがあるので、それぞれを認めるべきということですね。

吉浦:そうですね。AIは、人間だったら諦めるような長い期間でもブレずにやり続けたり、人にできないことができるのが魅力だと思います。人間にはできないほどに一途なことができるというのは、AIを題材にした物語の肝になると思っています。

――一方で、社会にはAI脅威論が多くなっています。ハリウッド映画でもAIを悪役にする作品が出てきました。

吉浦:テクノロジーが悪役にされがちなのは物語の仕組み的にしょうがない部分もあるとは思うのですが、せめてAI側に納得できるロジックがあって欲しいとは思いますね。

――AI脅威論の物語で、何かお好きな作品はありますか?

吉浦:マンガ版の『攻殻機動隊』でフチコマたちが人間を支配しようと議論するエピソード(KCデラックス『攻殻機動隊』収録「MEGATECH MACHINE1[ロボットの反乱])ですね。支配するとは具体的にどういうことか、支配した場合にフチコマたちはどうなるのか、むしろ、滅ぼさないほうがメンテナンスもしてもらえてメリットがあるんじゃないか、それは実質的に現状維持なのでは、など言い出すんです。こういうのは好きですね。

――AIが「人を滅ぼしてもメリットがない」とロジックで結論づけるさまが描かれているわけですね。実際、AIが人に戦争を仕掛けるというのは、ロジックよりも感情的な感じがします。逆に人間臭い印象になるというか。

吉浦:そうですね。『マトリックス』のように、電力確保のために人を支配するとか、そういう理屈があれば納得できますけど。

――吉浦監督の作品では、AIはただの道具ではなく、人との間に絆が生まれることもありますが、AIやロボットにある種の権利が認められるべきだと思いますか?

吉浦:難しい問題ですね。僕がAIやロボットと人が絆を育む話を描く時には必ず、その技術を作ったバックボーンにも人間がいて、その人の想いがそうさせているという描写をしています。それは『アイの歌声を聴かせて』も『イヴの時間』も同様です。だから、結局は人とのつながりを描くことになるんです。今、一部の国ではAIの創作には著作権を認めないという判決を下していますが、それはすごくわかるなと思うと同時に、僕自身、まだはっきりとした答えを出せずにいるんですよね。

――巷では脅威論が多いのですが、人間がAIに親しめるようになるために、どんな条件が必要だと思いますか?

吉浦:これがAIの役割だという枠組みが定まらず、一体どこまで行くんだっていう漠然とした恐怖が拡がっている状況ですから、そういうフレームが見えてくればいいんでしょうけど、急激に発展しすぎてそれが見えてこないんですよね。

――早い段階でAIに関するルールを社会の中でしっかり整備することが重要かもしれませんね。

吉浦:そうですね。でも、そうするためにもAIという技術を見極める必要があると思うのですが、今はそれすら難しいですからね。

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