『VIVANT』の功績で日本にも“スパイもの”が増加? 成功の立役者となった“別班”の存在

『VIVANT』が拓いたスパイドラマの地平

 大盛況の中、最終回を迎えた『VIVANT』(TBS系)。日曜劇場に突如出現した一大スペクタクルは放送後も反響が鳴りやまず、続編を望む声も多く聞かれる。

 砂漠を横断するアドベンチャー、追走劇の息詰まるスリル、知略を駆使しただまし合いと時空を超えた家族のドラマ。それら全てに“伏線”が張り巡らされ、視聴者は物語の行間を読み解くことで作品に参加し、放送後の視聴熱が高まる。日本と架空の国バルカを舞台に空前のスケールで展開された本作の成功要因はいくつも考えられるが、なかでも「別班」の存在を抜きにして『VIVANT』の躍進は考えられない。

 自衛隊の非公式部隊で、諜報、工作などいわゆるスパイ活動を主要な任務とする秘密組織。その実態はヴェールに包まれており、歴代の防衛大臣すら詳細を知らされていないという。『VIVANT』第2話で、公安部外事課の野崎(阿部寛)が説明した「米軍基地が全国に配置され、スパイ活動を取り締まる法律がないスパイ天国の日本で国際テロが起きない理由は、別班が陰で未然にテロを防いでいるから」という理由付けは説得力がある。とかく陰謀論的な範疇に押しやられがちな存在を『VIVANT』は主役に据えた。

 『007』シリーズや『ミッション:インポッシブル』シリーズなどの「スパイもの」は、エンターテインメントの王道にして人気ジャンルだ。邦画や日本のドラマでスパイものというと、あるにはあるが、刑事ドラマや探偵が活躍するミステリーと比べて数えるほどしかない。背景には、平和憲法の影響下で国際紛争に関与することがほとんどなかったことや、CIAやMI6、モサドなど国家公認の情報機関が存在せず、スパイが活躍する様子をイメージしづらい特有の事情もあるだろう。

 本作で別班の登場は衝撃的だった。異国の地で誤送金の後処理に駆け回る商社マンが、「世界中を巻き込む大きな渦」の国際テロ組織に関わり、公安警察と行動を共にする中で、別班という耳慣れない言葉は徐々に画面のこちら側に浸透。堺雅人演じる主人公の乃木憂助がテロ組織“テント”の協力者を見つけ出し、制裁を加える場面で乃木の正体とともに表舞台に躍り出た。別人格“F”が乗り移った別班の乃木は、超人的な能力とともに、超法規的な手段を用いて国家の正義を執行するダークヒーローの顔を持ち合わせていた。

 現実の別班がどのような形で存在しているかの真偽はともかく、ドラマ中の別班は自由度の高い存在で、物語を自在に動かしていく。あるのかないのかわからない別班は、これまで空想の域を出なかったスパイものに絶妙なリアリティを与える。観る側の想像力を刺激し、作品世界への没入感を高めた。公安とテロリストに第3勢力として加わることで、三つ巴の構図を生み出し、ストーリー展開に柔軟性をもたらした。日曜劇場の「敵は味方のふりをする」テーゼに、敵でも味方でもない独自の戦略で動く主体を登場させたことは、固定化した勧善懲悪の図式を打ち破り、正義と悪の二項対立にオルタナティブを提示する結果となった。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる