稲垣吾郎が語る、“芸能界”と違う舞台ならではの魅力 「しつこいくらいに追求していける」

稲垣吾郎が語る、舞台ならではの魅力

自宅の暗室で現像するのは、自分ではなく人のネガ!?

――「生涯かけて撮りたいものを見つけなさい」と言われて育った純九郎ですが、稲垣さんはご自身のカメラで「撮りたい」と思うものはありますか?

稲垣:僕は、結構何を撮っていいか迷っているタイプです。だから向いていないですね、カメラマンには(笑)。やっぱり撮りたいものがない人は、カメラを持っちゃいけないのかなとも思うんだけど、欲しくなっちゃうんですよね。僕はもしかしたらこのカメラっていう“メカ”としての機能美であったり造形美であったり、そういう美しさに魅力を感じているのかもしれない。なかでも、古い機械式のアナログなフィルムカメラがすごく好きなんですよ。持っているカメラのなかだと一番古いもので1920年代のものとかあって。100年前ですよ、恐ろしく古いですよね。2000年代になるとほとんどのカメラがデジタルに移行していっちゃったから、そういう古いカメラを見つけるたびに買っちゃって。例えば、この作品に出てくるライカのM3っていうカメラ、最新機種はM11なんですけど、実はそのシリーズは全部持っています。その割には撮ってないじゃないかっていうね(笑)。「撮るためにあるんだから、カメラは!」って、自分にツッコミを入れたくなりますよ。

――(笑)。Instagramや2020年に発売されたフォトエッセイ『Blume』でも美しい写真を発表されてきましたよね。

稲垣:もともと花とか植物を撮るのはすごく好きなんですけどね。でも、フィルムで植物を撮るってすごく難しいんですよ。当たり前ですけど、デジタルとフィルムってもう全然違うんだよね。だって見れないんだから、その場で! でも全然わかってはいないけれど、やっぱり好きだからフィルムカメラを持ってお散歩に行くんですよね。撮るのは、普通の草花とか、何気ない街の景色とかばかり。だから、あんまり人に見せられるようなものは撮っていないんですよ。まあ、いつか写真展とかやれたらいいなっていう憧れはありますけどね。

――自宅には暗室も作られたと、お聞きしました。

稲垣:そうそう。最近は、よく人のネガも現像してます。むしろ「撮ってきて!」ってお願いしつつ、フィルムをプレゼントしたりして。そうそう、『THE TRAD』で一緒にパーソナリティをやってる吉田明世さんの家族写真を、僕が現像しました。自分で撮りたいものに迷っていて、暗室に籠もって人の家族写真を現像して……って、まさに純九郎ですね(笑)。

――逆に「撮られる」側になることも多かったと思うんですが、今まで印象的だった写真はありますか?

稲垣:それこそフィルムでもいっぱい撮っていただいてきたんですよね。最近またフィルムで撮られるカメラマンの方も増えてきている印象もあります。やっぱりフィルムにしか出せない色とか質感の良さがありますからね。どのカメラマンさんも、みなさんそれぞれに唯一無二で、本当にいつも素敵に撮ってもらっていただいていて印象的なんですけど。そのなかでも「特に」と言われると、巨匠だからというわけではないんですが、アラーキー(荒木経惟)さんに撮っていただいたモノクロ写真は今でも大切に持っています。あれは『ゴロウ・デラックス』(TBS系)でアラーキーさんがゲストに来ていただいたときに、雑誌『ダ・ヴィンチ』で連載されていた「アラーキーの裸ノ顔」風に撮ってもらったんですよね。それをプリントしてもらってね。すごく大切な1枚になりました。

――昔の写真を見返すタイミングはありますか?

稲垣:そうですね。やっぱりプリントしてもらうとちゃんと見返します。あとは、ファンの方がすごく古い写真を大切に持っていてくださるじゃないですか。それもすごく嬉しくて。時々、SNSとかで懐かしいなっていう写真を載せていてくださる方もいらっしゃるんですよ。もう今では僕自身も手に入れるのは難しいものとかもあって、「あ~懐かしいな」って当時のことを思い出しています。自分の歴史っていうと大げさかもしれないけれど、そのときの気持ちとか振り返るきっかけになりますね。

舞台で演じるのは、楽しくもあり、修行でもある

――稲垣さんにとって舞台のお仕事には特別な思いがあるとお聞きしました。改めて、舞台に立つ魅力を教えてください。

稲垣:舞台は毎日、失敗をやり直していけるっていうのが個人的にはすごく好きです。多分、僕はしつこい性格なのかもしれない。何度もやりたくなっちゃうんですよね。なんか、納得しないんです、特にテレビとかだと。「ああすればよかったな」って、いつも後悔してばかりいるから。映画なんて観たら、もう粗しか見えてこないし。その点、舞台は毎日失敗を直しながら千秋楽でようやく完成できる感じがあって……っていうと、お客さんにすごく失礼な話なんですけど。完成したと思っていたのに再演したらもっと良くなったりしてね。「じゃあ、初演は何だったんだ!?」ってね(笑)。

――(笑)。

稲垣:もちろん未完成なものを届けているつもりはないんだけど、やっぱり本当に磨けば磨くほど、どんどん深化していくものなので。それは観てくださるお客さんのおかげでもあるし。カッコ良すぎる言い方になっちゃうかもしれないけれど、僕は職人気質的なところもあるんだと思います。どこか芸能界ってどんどん生産されて、消費されていくっていうところがあるじゃないですか。それはそれで大切なことではあるんだけれど、一方でしつこいくらいに追求していけるのは舞台ならではの魅力ですね。

――舞台のお仕事は作品ごとにリセットされていく部分もあると思うのですが、やりがいを感じる瞬間は?

稲垣:毎回「終わりたくないな」って思いながらも、「ここまでできた」っていう手応えを感じられるところですかね。それから、その時間をお客さんと一緒に過ごせるっていうのも、本当に大きなことで。だって、みんなそれぞれに違う人生があって、どんな事情を抱えているのかも正直わからないじゃない。なのに、その時間だけはみんなで共有して、その人の人生に何かしらの影響を与えることができたら……って、そういう可能性があるのも舞台の良さですね。今回の作品も、そんなふうに誰かのもとに届いたらいいなって思います。

――長年舞台で活躍されてきた稲垣さん。その秘訣はなんですか?

稲垣:秘訣なんてものはないですよ。僕は「もっとこうすればよかったな」って思うことはあっても、落ち込んだりはしないんです。意外と前向きなところがあって。生きていて、ふさぎ込むことって不思議となくて。だから、今回演じる純九郎のように、とても繊細な人間を演じるっていうのは、ある意味修行ですよね、僕にとっては。「お前は、こういうヤツの気持ちをわかることができるのか?」と(笑)。なので、僕が今回の作品でどう磨かれていくのか、ぜひ観て確かめてください。

■公演情報
モボ・モガプロデュース『多重露光』
【公演日程】10月6日(金)~10月22日(日)
【会場】日本青年館ホール
【入場料金】S席:12,500円/A席7,500円(税込·全席指定)
※未就学児童入場不可
※営利目的の転売禁止

【チケット】
ぴあ、イープラス、ローソン、CHIZU TICKETにて発売中

出演:稲垣吾郎、真飛聖、杉田雷麟・小澤竜心(ダブルキャスト)、竹井亮介、橋爪未萠里、石橋けい、相島一之
脚本:横山拓也
演出:眞鍋卓嗣
企画・製作:(株)モボ・モガ
公式サイト:https://tajuroko.com/
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/tajuroko

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる