稲垣吾郎が持ち続ける自分への探究心 舞台に夢中だった20年前を回顧する

稲垣吾郎が持ち続ける自分への探究心

 ミュージカル・コメディ『恋のすべて』に主演する稲垣吾郎。「大人の渋さを身につけた吾郎さんに、世間の裏表を知る中年探偵を演じて貰おうと思います」と語るのは脚本と演出を担当する鈴木聡。稲垣演じる中年探偵ニックは奇妙な依頼を引き受ける。それは「娘を恋に落とす」こと。この役がいまの稲垣吾郎にぴったりだとか。天才音楽家や死刑執行人など重いものを背負った役を見事に演じてきた稲垣吾郎の素はそれらとはまるで違ってニックのようなのだと少し照れながら、でも楽しそうに教えてくれた。(木俣冬)

ニックは、自分に似ていて恥ずかしい?

――『恋のすべて』に主演するにあたって、今、どんなお気持ちでしょうか?

稲垣吾郎(以下、稲垣):『恋のすべて』の脚本と演出を手掛けている鈴木聡さんとは19年前から折りにつけ仕事をしてきました。鈴木さんとまた一緒にやれることを嬉しく思っています。また、去年はコロナ禍で舞台を中断したこともあり、今年もまだまだ心配な状況ですが、また舞台ができることが幸せだなと思いますし、最後までなんとしても完走したいと願っています。

――鈴木聡さんの作品の魅力はどこにありますか?

稲垣:はじめて鈴木さんの脚本でお芝居したのは19年前でした(2003年『謎の下宿人〜サンセット・アパート〜』脚本が鈴木で演出は山田和也)。その頃から一貫して、鈴木さんのお芝居は楽しいとしか言いようがないものです。甘くキラキラした非現実的な世界にいる稽古から本番までの2カ月間ほどは夢ごこちで、仕事だということをつい忘れてしまいそうになります。

――今回はどんな役ですか?

稲垣:中年探偵ニックは探偵を職業にしていますが、この作品のなかでは探偵らしいことはあまりしません。ある女性を恋に落とすことが今回のニックの仕事です。彼は僕より少しだけ年下の設定ですが、これまでいろいろな経験してきて、もう恋をすることはないかなと思いながらも、やはりドキドキはしていたいなという想いに揺れている人物で、そういう感情がコミカルに描かれています。そんな彼の状況は今の自分の心境にも合うかなと思います。等身大の役なんじゃないかな。

――ニックを見て、稲垣さんにもこういうところがあると思ってよさそうですか?

稲垣:全部が全部というわけではないですが、セリフを言いながら、自分がふだん言いそうなセリフだなと恥ずかしくなるときもあります。今、僕は週3回、ラジオの生放送と収録をやっていて、そこでは僕の素の部分が出ていますが、ニックはそういう感じです。鈴木さんとは長いつきあいですから、僕のことをよくわかってくださっているんでしょうね。

――ラジオでは素が出ているんですね。

稲垣:そうなんです。ニックは滲み出て隠せない僕の本質に近い気がします。芸能人にはよくあることだと思いますが、望まれているキャラクターを演じてしまうことがあります。個性を際立たせるためにやっていたことが、いつしかそれが当たり前のように受け取られるようになり、するとサービス精神で常にそこに寄せてしまう。とくにテレビではよくあることです。ところがラジオではほんとうに素でしゃべっているんですよ。

――ニックとはどんなところが似ていますか。

稲垣:あまりに似ているところが多いからあまり明かしたくない(笑)。役者は、自分と違う人物を巧みに演じていると言いたいものですけれど、こればっかりはどうしようもないですね。ひとつ明かすとしたら、状況の判断の仕方でしょうか。物語がうねっていくなかでニックが選択することは僕も選択しそうなことです。それから、僕の調子の良さとか意外とおしゃべりなところとか、人たらしなところも似ているかな。そういうふうに僕に当て書きする作家さんは鈴木さんの他にはいないんですよ。僕のパブリックイメージはそういう方向じゃないですよね。これまで僕の演じてきた役というと、ちょうど発表になったばかりの大正時代を舞台にしたドラマ『風よ あらしよ』(NHK総合)のダダイスト・辻潤の役や、舞台『No.9 -不滅の旋律-』のベートーヴェンのような天才音楽家の役など、シリアス、あるいはややクセのある役が多いですが、僕自身は違うのになあって思うんですよ(笑)。その点、鈴木さんは僕のコミカルな資質をよくわかっていらっしゃいます。

――ニックと似てないところはありますか?

稲垣:ニックは僕よりもちょっと気障かな。あと、言葉の使い方が僕より巧みです。僕は言葉が理屈っぽくなってしまうところがあって。それは親切心によるもので、わかりきったことを必要以上に丁寧に説明してしまうんです。こういう取材でもその傾向はありますね。それに比べてニックは洒落た言い方をします。「この言い回しは村上春樹だね」って鈴木さんはよく言ってますよ(笑)。

――ミュージカルですが、楽曲は、作品の舞台である1930年代のアメリカで流行ったスウィングジャズ的なものですか?

稲垣:そういう曲もあります。例えば、北村岳子さんが歌う「スゥイング」はすごくステキです。ベニー・グッドマンのような世界を軽快に歌っていて、そこに僕ら男性俳優がコーラスで参加します。ほかには、デューク・エリントンのような曲もあるし、ビル・エヴァンスのようなモダンジャズのようなものもあります。美しいバラードをピアノ一本で演奏する場面もあります。青柳誠さんの楽曲の面白さは、ひとつの時代や国に限定されないところです。スイングジャズのようなものもあれば、美空ひばりさんが歌っていたような昭和歌謡のようなものから大貫妙子さんのようなシティ・ポップス、それらをベースにして現代的な曲に進化した僕らが歌ってきたような曲まで実に多様なんですよ。僕がこれまで歌ったことのないような曲も多く、稽古していてすごく楽しいです。『恋のすべては』日本発のオリジナルミュージカル作品ですから。なかなかないからですからね、日本のオリジナルミュージカルは。これはもう自負できるところだろうと思います。耳でも楽しめるお芝居になっていると思いますよ。

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