“隠された”心を描くこと 『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』の魅力を紐解く

“隠された”心を描く『夜きみ』の魅力

 さらに、映画の序盤でゴッホの自画像とゴーギャンの描いたゴッホ像を比べて、己が思う自分自身と他人から見た自分とでは印象が異なることを美術教師の岡崎(上杉柊平)が例示する場面は、この映画が描く“本当の自分自身”とは何であるかを間接的に問いかけていて示唆的だ。これまでも酒井麻衣監督は、『いいにおいのする映画』(2016年)や『はらはらなのか』(2017年)、『劇場版 美しい彼 ~eternal~』などでも、劇中の美術にこだわってきたという経緯がある。本作においても、茜の部屋や学校屋上の造形に唯一無二の個性を発揮していることが判る。

 茜が惹かれる青磁は空をモチーフにした絵を描いているが、彼はキャンバスに何層にもカラフルな絵具を塗り重ねていく。青磁の絵が彼の心象風景を具現化したものとして描かれる一方で、「塗り重ねていく」という行為には、その心に表面的にはわからない<隠された>何かがあることの示唆にもなっている。やがて、お互いの隠し事は引力のようにふたりを引き合わせ、両者の関係性に均衡を生んでゆく。自由奔放に映る青磁の側にも本心を隠さなければならない事情を盛り込んでいることも、多角的な共感を生んでいる由縁だろう。

 何よりも、この映画には“救い”がある。わたしたちは過酷な時代に生きている。そんな状況下においても、人が人を助け合い支え合うという生きる術を気恥ずかしいまで実直に描いているのは、今の時代に足りない要素であるからなのだと解せる。そんな気恥ずかしさは、茜が継父に対して「お父さん」という一言が言えないことにも暗喩されている。斯様な感覚は老若男女を問わないものであるからこそ、『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』は幅広い層、幅広い世代の共感を得ているのではないか。

映画『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』予告編

■公開情報
『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』
全国公開中
出演:白岩瑠姫(JO1)、久間田琳加、箭内夢菜、吉田ウーロン太、今井隆文、上杉柊平、鶴田真由
監督:酒井麻衣
原作:汐見夏衛『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』(スターツ出版刊)
脚本:イ・ナウォン、酒井麻衣
音楽:横山克、濱田菜月
主題歌:JO1「Gradation」(LAPONE Entertainment)
製作:『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』製作委員会
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント、アスミック・エース
配給:アスミック・エース
©︎2023『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』製作委員会
公式サイト:https://yorukimi.asmik-ace.co.jp/

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