『らんまん』神木隆之介と要潤の対立が象徴する時代性 在野の研究者が下剋上を起こす?

『らんまん』万太郎と田邊の対立が表すもの

 『らんまん』で田邊の前に彗星のごとく現れたのが万太郎である。恒常的な人材難に直面していた田邊にとって、植物学を我が人生と定め、草花の生態に通じた万太郎は、待ち焦がれた逸材だったに違いない。人を見る眼はある田邊は、標本の整理・分類ができる万太郎を歓迎した。もとからいた人間からすると面白くないが、そこは万太郎のキャラでなんとかする。しかし、最後の最後に理解者だったはずの田邊が立ちはだかった。

 小学校中退の万太郎が大学、せめて中学校を卒業していればと想像してしまうが、仮に学歴があっても田邊の逆鱗に触れた以上、結果は同じだったと思われる。そのことはトガクシソウを発表した伊藤孝光(落合モトキ)が間接的に証明している。田邊がそこまでの強権を発動できたのは、東京帝国大学における講座制のトップは、そのままこの国における分野の頂点を意味していたからだ。ムジナモの論文を共著にしなかった万太郎が、業界ルールを知らなかったことは不運としか言いようがない。また田邊には嫉妬心もあっただろう。そこは物語のあやだが、本質は万太郎が研究室におけるタブーを犯したことにある。絶対的な存在を敵に回せば、もはや居場所はない。

 万太郎と田邊の対立軸は、本作の隠されたテーマを明らかにする。万太郎のモデルとなった牧野富太郎は、日本において植物学の父と称される。牧野も小学校中退で学歴がなく、のちに東大の助手となるが、当時は在野の研究者にすぎなかった。その牧野が欧米に留学したエリートを尻目に植物分類学を打ち立てる過程は、下剋上的な逆転の構図を有している。ちょうど牧野自身も一時期関わった自由民権運動で、下野した板垣退助らの働きかけで国会開設が実現したように、民間の立場から公共のあり方を変えたことは歴史上あった。万太郎と田邊の対立は、本作の底流にある時代のうねりを象徴している。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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