『らんまん』神木隆之介と要潤の緊張感 『仮面ライダーアギト』『探偵学園Q』など深い縁も
朝ドラ『らんまん』(NHK総合)のこのところ充満しているピリついた空気に気を揉んでいるのは筆者だけではないだろう。神木隆之介が演じる主人公・槙野万太郎と、要潤が演じる田邊彰久の関係がバチバチ状態なのだ。これまでも緊張と弛緩を繰り返し、私たち視聴者の関心を引き続けてきた本作だが、いまは緊張感がピークに達している。神木と要の演技バトルにも、演じる役を超えた熱いものがあるのだ。
念のため、劇中における万太郎と田邊の関係を確認しておこう。田邊は東京大学植物学教室の初代教授。植物学の道を歩む万太郎にとっては偉大な存在だ。学歴はないものの日本の最高学府で植物研究をしたいと望む万太郎の才能にいち早く気づき、田邊教授は万太郎が研究室を出入りすることを周囲の反対を押し切って許した。つまり万太郎にとって田邊教授とは、植物研究の導き手にして最大の理解者だったのだ。が、それは少し前までの話。植物学の道における万太郎の才能は圧倒的なものがあり、そのポテンシャルは底が知れない。この才能を前にした田邊教授は嫉妬心と焦燥感に駆られ、「自分のものにしなければ」と、暴挙に出はじめたのである。万太郎のことを「虫ケラ」呼ばわりした際にはさすがに肝が冷えた。しかしそれだけ彼も本気なのだ。
もちろん、“本気”なのは劇中のキャラクターたちだけではない。万太郎と田邊のやり取りを繰り広げる神木隆之介と要潤という2人の俳優も同じである。泰然としていた要の佇まいは田邊の心情がそのまま表出するように揺らぎ始め、作品全体のトーンにまで影響を与えている。万太郎は自由奔放な性格だが、彼の行動を制することができたのは田邊だ。万太郎をコントロールしようとする支配力は、作品そのものにも響いてくる。これまでとは明らかにセリフの調子や声色を変化させている要は、どこか浮世離れしたところのある掴みどころのない田邊のキャラクターを短絡的で分かりやすいものへと一変させた。三度目の朝ドラ出演。作品内でのポジション取りが的確だ。
対する神木も負けていない。ひょうひょうとした性格の万太郎は、これまではある程度の不満や不安を受け流してきた。というより、彼の場合は人としての器が大き過ぎて、だいたいのできごとが取るに足らないものだったのだろう。けれども、植物のことに関しては話が別だ。にこやかな表情は消え、田邊に向ける視線はブレない。力のこもった声は、抑圧しようとする田邊の態度への必死な抵抗の表れだ。これは普段の万太郎が植物へと向ける笑顔の裏にある素顔(=真の姿)なのだろう。万太郎と田邊の真意を体現する2人の俳優のぶつかり合いによって、『らんまん』は印象を変えつつあるのだ。