『らんまん』を“気持ちよく”観られる理由は? 万太郎に学ぶ頼ることと感謝の大切さ
『らんまん』(NHK総合)のサブタイトルに出てくる植物の名は、植物に詳しくない者からしたら、馴染みのないものが多い。知らない植物を知ることができるのも『らんまん』の楽しみのひとつ。第19週は「ヤッコソウ」。万太郎(神木隆之介)が高知で見つけ、名前をつけた植物である。実際に、万太郎のモデル・牧野富太郎が実際に高知で命名している。徳島、高知など南のほうで見られる植物なのだとか。
高知の遍路宿の子・山元虎鉄(寺田心)が「こんまいお遍路さん」と呼んでいたそれは、白くて、天使のようにも見えるし、頭に白い布をかぶった聖職者にも見えるし、いずれにしても清い印象を受けた。寿恵子(浜辺美波)はそれを「奴さん」に似ていると発言。そして、万太郎は「オヘンロソウ」ではなく「ヤッコソウ」と名付けた。偶然とはいえ多大な協力をしてくれた虎鉄の姓が学名につけられた。
史実では、高知の子供が発見し、それを学校の先生に報告して、その先生の名前(山本)が学名になったそうだ。牧野富太郎は発見者の名前をつけなかった。それはまるで、ドラマで、万太郎が「ムジナモ」に関して、多大な協力を仰いだ田邊(要潤)の名を論文のどこにも入れず、ないがしろにしたと受け止められるようなことをしてしまったことにも近い。
少なくともヤッコソウに関しては、モデルの牧野富太郎も意外と気遣いが足りない人のように感じる。とはいえ、こういうことは、往々にして、あちらを立てればこちらが立たず、みたいなことになりがちなもの。牧野富太郎の対応はヤッコソウ以外では、どうだったかわからないが、ドラマでは、田邊に失礼をしてしまった万太郎はその反省を生かし、ヤッコソウの存在を教えてくれた虎鉄の姓をつけたと考えると、失敗を糧に改善を図っているように思える。
ヤッコソウを名付けたおりに万太郎は虎鉄に手紙を書く。すると彼の先生から植物標本が送られてくる。世界には知らない植物がまだまだあり、それを愛でる人たちがいる。植物を通して、万太郎は自分はひとりではないと実感する。田邊に見捨てられ、図鑑発行の邪魔をされ、ロシアへの留学の道もマキシモヴィッチ博士の死で途絶え、実家も倒産して頼れるものがなくなった。第一子も亡くしている。絶望に耐え、孤軍奮闘を余儀なくされた万太郎であったが、寿恵子がお金の工面をしてくれて、おなじみの藤丸(前原瑞樹)と波多野(前原滉)も協力してくれる。全然、ひとりではないのである。捨てる者あれば拾う者あり、だ。
万太郎は恵まれすぎていると感じる視聴者もいるだろうけれど、彼は、ぎり、いやな印象を回避している。それは、万太郎が感情的でないからだろう。もちろん悲しみや怒りの感情はあるのだが、どんなときでも、自分の身に降り掛かったネガティブな出来事の原因を他者のなかに見出し、その人たちを悪者や敵にすることで解消することがない。自分のせいだと受け止める。そして、目標のために、いま、自分のできることを行う。その冷静な対応によって、万太郎が自分勝手であると、ストレートにネガティブな感情をぶつけることができにくい。