赤楚衛二がもっと好きになる! 『舞いあがれ!』貴司とは思えない『ゾン100』の弾けぶり
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、バウアー石井が『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』をプッシュします。
『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』
高校生の頃、自宅近くのTSUTAYA(閉店ラッシュ寂しいですね。。)のミニシアターコーナーのランキングでいつも上位にランクインしていたのが、映画『死ぬまでにしたい10のこと』でした。若くして死が迫った主人公が、後悔のない最期を迎えるべく、自分自身と家族と向き合っていく物語です。いわゆる難病ものにカテゴライズされる作品ですが、映画自体は意外なほどにカラッとしており、決してお涙頂戴になっていないところが高く評価されていた理由のひとつのように思います。
そんな『死ぬまでにしたい10のこと』のエッセンスを明らかにタイトルそのままに受け継ぎ、「ゾンビ」をかけあわせたのが『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』。麻生羽呂と高田康太郎による原作漫画は現在も連載中、7月からアニメも配信中となり、満を持して実写映画版も配信となりました。
タイトルからして“おふざけ”感がある本作。えてして、狙いに行ってスベることほど恥ずかしいものはありませんが、本作はそれを見事に回避し、真面目にとことんふざけることに成功した作品になっています。
主人公アキラは、出社初日の歓迎会の後に完徹させるような超ブラック企業で働く日々。傍から見れば「辞めればいいのに」の一言で終わりですが、それすらも考えられないほどにとらわれてしまっていたアキラ。原作漫画では、ブラック企業描写も“ファンタジー”に見える部分があり、他人事として楽しめる要素がありました。が、この実写版、そこまでリアルにするなと言いたいほどに、生々しすぎるほどにブラック描写が描かれ、アキラ同様に心臓がギュッとなります。この嫌〜な気持ちを味わうために(その後の解放の反動も含めて)実写化の意義があったと言ってもいいぐらいです。
何と言っても、アキラの上司・小杉を演じる北村一輝の演技が恐ろしい。これまでも数々の作品で芸達者ぶりを見せつけていますが、悪役にまわるとここまで嫌な人になることを久々に思い出させてくれました。あんなにドスの聞いた声と顔で詰められたら、もう従うしかありません。アキラの心からの「会社に行きたくない」には誰もが思わず同調してしまうと思います。
だからこそ、その後にやってくる「会社に行かなくていいんだ!」の解放感たるやいなや。本来であれば、家の外にはゾンビがあふれ、生きるか死ぬかゾンビ化かというこの世の終わりの状況のはずなのに、一気にアキラの世界はきらめいていくのです。
そして、この解放感を味わせてくれる要因のひとつが、アキラを演じる赤楚衛二の弾けぶり。朝ドラ『舞いあがれ!』(NHK総合)の寡黙で優しい貴司くんの姿は何処へ、というほどお茶目で楽しい新たな一面を見せてくれています。