『ゾン100』は観るものを解放する特効薬! 突出したクオリティとアニメならではの表現

『ゾン100』は観るものを解放する特効薬!

 放送中のアニメ『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと』(以下、『ゾン100』)が注目を集めている。アニメ放送後には大きな反響を呼び、海外のアニメ評価サイトの世界ランキングでは上位にランクインするなど高い人気を得ている。(※)

 主人公の天道輝はブラック企業で社畜として働いていた。そんなある朝、世界中がゾンビパニックに陥る。社畜の輝はゾンビパニックになったことで会社に行かなくて済むことをむしろポジティブに捉えており、ゾンビだらけの世界の中で自由に生きようとするところが本作の新しいところだ。そんなアニメ『ゾン100』では、アニメだからこそできる表現が随所に使われており、原作の魅力を最大限に引き出している。今回は『ゾン100』でおこなわれたアニメならではの高度な表現について、あらすじを紹介しつつ分析したい。

【7月9日放送開始!】TVアニメ『ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~』PV第2弾

 『ゾン100』は、主人公の輝が真っ暗な部屋でゾンビ映画を観ながら「会社に比べりゃ……天国だよな……」と口にするシーンから始まる。ほとんどの人は「そんなことないだろう」と感じるはずだが、徐々に輝がそう思うまでに至った背景が見えてくる。輝が働いていた会社は、終電帰宅どころか徹夜勤務が常態化していた。入社後すぐにブラック企業だと気づくが、学生時代ラグビー部だったこともあり体育会系の気合でなんとか乗り切ろうとする。それほどのブラック企業のため、日常的に人がいなくなっていることを示唆するシーンがある。輝が「廃棄」と書かれたダンボールにファイルを入れていると、上司が「高橋飛んだから、お前引き継げ。週末納品な」と言って、高橋と書かれたネームプレートをゴミ箱に捨てる。ゴミ箱の中にはネームプレートが複数入っていたが、ゴミ箱の中身を捨てる機会はそう少ないものではない。つまりほぼ毎日のように、社員が飛んでいなくなっている状態なのだ。

 ブラック企業の中で輝がめげずに働けていたのは、入社初日に声をかけてくれた経理の鳳紗織の存在があったからだ。輝は彼女に好意を抱いており、その存在が唯一の心の支えになっていた。だが入社2年目のある日、その心の支えも無惨に崩れ去ってしまう。鳳が社長の愛人であることが発覚するためだ。そのシーンの直後から、輝の絶望を表現するかのようにほぼ全てが黒い靄とモノトーンの描写で描かれる。唯一色があるのは、輝が自宅で観ているテレビ画面の中だけとなる。ある朝「会社に行きたくない」という絶望に包まれながらフラフラと会社に向かう際、目にしたテレビ画面には黒く塗りつぶされたような映像が映し出されていた。精神が崩壊しており、輝の世界から完全に色が失われた瞬間である。

 その後、輝は、未払いの駐車場代を支払うため管理人の部屋を訪れたところ、ゾンビに遭遇する。当初は「このままじゃ会社に遅れる!」と考えながら逃げていたが、外の混乱状態を目にし「今日から会社……行かなくてもいいんじゃね?」と閃く。輝は「やったー!!」と叫び喜びを爆発させるが、その瞬間それまでモノトーンだった描写が一気にカラフルになる。追いかけてくるゾンビたちは血を流しているが、赤以外に青や黄色などの血も混ざっている。血をカラフルにすることで異形の存在であることを感じさせつつも、輝にとってはゾンビが恐怖の存在ではなく希望をもたらした存在であることも表している。「いつから忘れていたんだろう……世界ってこんなにも、鮮やかな色に満ち溢れていたんだな」という輝のセリフをモノトーンからカラフルになる色彩表現で強調させている。これは漫画ではなかなかできない、アニメならではの表現である。

 さらにブラック企業で追い詰められていた際は、画面が上下に黒の帯がある「シネマスコープサイズ(映画のような横長の画面」になっていた。これも輝が会社に行かなくて良いことに気づいた瞬間、通常サイズに戻り輝の視界の広がりを表現している。視界が広がりすぎて、宇宙空間まで見えているほどだ。

 マンションから飛び降りるアニメオリジナルのシーンで輝の目がアップになるが、輝が完全に正気を取り戻し、ブラック企業の呪縛から解放されたことが明確に分かる。本来マンションから飛び降りて無傷ではいられないが、体の痛みすら関係ないほどの解放感を大袈裟に表現している面白い見せ方だと感じる。このような演出により、輝の心理を見事に表現しているのだ。

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