『マイ・エレメント』はパーソナルな作品 監督が明かす『アーロと少年』からの変化

『マイ・エレメント』監督のパーソナルな思い

 ディズニー&ピクサーの新作映画『マイ・エレメント』は、火・水・土・風のエレメント(元素)が共に暮らす“エレメントの世界”が舞台。全てが正反対な“火のエレメント”エンバーと“水のエレメント”ウェイドの恋模様や、エンバーと両親の深い関係が描かれる。4月下旬、筆者は米カリフォルニア州にあるピクサー・アニメーション・スタジオを訪れ、ピーター・ソーン監督にインタビューする機会を得た。前編と後編に分けてお届けする今回のインタビュー。前編では、長編監督デビュー作となった前作『アーロと少年』(2015年)での経験や、『マイ・エレメント』に込めたパーソナルな思いについて語ってくれている。

『アーロと少年』は辛い経験だった

ピーター・ソーン監督

ーー監督にとっては、長編デビュー作となった前作『アーロと少年』以来8年ぶりの新作になります。ようやく2作目を送り出せる心境を教えてください。

ピーター・ソーン(以下、ソーン):子育てとよく似ていますね。『アーロと少年』は18カ月というすごく短い期間での制作でしたが、今回はずっと長い時間がかかったので、まさに子供が育っていくのを見守っている感じでした。その中では、良いことも悪いことも起こります。子供にとって必要なことを教えようとしたり、大事な栄養を与えようとしたり……と思ったら、向こうが反抗してきて「いや、それは困るよ」と思ったり(笑)。そんな中でストーリーが育ち、変革していったのです。そして今、そのストーリーに「さようなら」を言うときがきました。それは子供に「さようなら」を言うような感じです。大学に入るために家を出て、世界に羽ばたいていく子供を見送る感じ。ひとつの作品にこんなに長いこと携わったことがなかったので、僕は今、ものすごく感極まっています。

ーー『アーロと少年』とは大きく異なる制作過程だったわけですね。やはり制作期間が短い方が大変でしたか?

ソーン:『アーロと少年』はきつかったです。とても辛い経験でした。僕はあの映画をとても誇りに思っていますし、クルーは一生懸命に仕事をしましたが、僕にとってはサバイバルとも言える経験でもありました。最初に決まっていた監督が降板することになって僕が任されることになったのですが、スタジオは監督経験のない僕を信じてくれました。ですが、いざ公開されると、『アーロと少年』は多くの人にとって“お気に入りの映画”にはなりませんでした。そういう意味で、辛い経験だったんです。その思い出はずっと僕の中に残るでしょう。一方で、僕らがやったことへの誇りがなくなることもありません。

ーー観客の反応や興行的な部分で良い結果が得られなかったと。

ソーン:その通りです。ですが、今回の『マイ・エレメント』は、『アーロと少年』とはまるで違う経験でした。この作品は、僕にとってずっとパーソナルな作品だからです。『アーロと少年』はパーソナルな作品ではありませんでしたが、あの映画を作る過程はパーソナルなものになりました。それがどんな作品であれ、自分自身を注ぎ込まなければいけないから。それに、才能ある友達と何かを作ることができるなんて、それ自体が幸運なことなんです。そのことに感謝しています。

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