『マイ・エレメント』はパーソナルな作品 監督が明かす『アーロと少年』からの変化
「物語を紡ぐには、自分をさらけ出さないといけない」
ーー『マイ・エレメント』には監督自身の生い立ちや経験が反映されていると聞きました。そういった自身のパーソナルな部分を作品に反映させることの醍醐味について、監督はどのように考えていますか?
ソーン:自分をさらけ出すのはとても恐ろしいことです。まるで服を脱ぐようなもので、裸になった自分をみんなに判定されるような感じと言えるかもしれません。僕はピクサーに23年勤めているのですが、最初にやった仕事のひとつが、『ファインディング・ニモ』でストーリーボードを描くことでした。それまでストーリー部の仕事をやったことがなかったのですが、監督が「ストーリー部においで」と誘ってくれたんです。そこで、1週間かけてひとつのアイデアを考えて、監督に提案したのですが、全然ダメだと言われて、大きなショックを受けました。自分自身のすべてを注ぎ込んだアイデアだったからです。それを受けて僕は考えました。次もまた心をさらけだして注ぎ込むのか、それとも自分の心は閉ざしたまま仕事をするのか……。僕が選んだのは、自分の心を注ぎ込むことでした。そのときからずっとそうしてきています。やはり、物語を紡ぐには、自分をさらけ出さないといけません。それはとても辛いことで、そのせいで痛い思いもしますし、傷跡が出来たりもします。でも、芸術にはそれだけの価値があるのです。同じ作品に携わるほかのアーティストたちも、「よし、やろう。これが僕の心だ」とさらけ出してくれました。たとえ誰かに踏まれたりぶたれたりしても、それはやらなければいけないことなのです。
ーー『マイ・エレメント』において、最もパーソナルな思いを込めたのはどの部分ですか?
ソーン:この映画は、僕たちの両親が犠牲を強いてくれたことに感謝を示すものです。父が亡くなる前、僕はニューヨークである儀式に出席し、みんなに感謝の言葉を捧げる機会がありました。その後、父が亡くなったのですが、そのときの出来事がこの映画に引き継がれています。ネタバレになってしまうので詳しくは言えませんが、父、母、そして娘が感謝を示すシーンがあります。それが、僕にとって最もパーソナルで、重要なシーンです。
ーーそんなパーソナルな思いを込めた『マイ・エレメント』という作品をどういう方に届けたいですか?
ソーン:愛する誰かのためにリスクを負ったことがある人たち、犠牲を強いたことがある人たちにぜひ観てほしいです。この映画は、その人たちのためのものです。そして、人生に穴があると感じている人たちにも。家族や友達、パートナーは、その人の穴を埋めるためにどこまで犠牲を払うのか。そこから共感、思いやりが生まれ、癒しにつながっていくのです。『マイ・エレメント』は、そういった体験をしてきた人たちのための映画なんです。
■公開情報
『マイ・エレメント』
8月4日(金)全国ロードショー
監督:ピーター・ソーン
プロデューサー:デニス・リーム
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2023 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.disney.co.jp/movie/my-element