『バービー』『オッペンハイマー』旋風が北米を席巻 “Barbenheimer”として社会現象に

『バービー』『オッペンハイマー』が北米席巻

 新型コロナウイルス禍による映画業界の一時停止とそこからの回復、その矢先に始まった全米脚本家組合(WGA)と全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)のWストライキ。苦境が続くハリウッドだが、一寸先に何が待っているかわからないのがこの世界のおもしろさだ。

 7月21日~23日の3日間、北米週末興行に史上初の奇跡が起きた。人気玩具の実写映画版『バービー』と、クリストファー・ノーラン監督の最新作『Oppenheimer(原題)』が、ともにランキングの第1位・第2位を獲得。『バービー』は1億5500万ドル、『Oppenheimer』は8050万ドルを稼ぎ出した。北米映画市場において、初登場作品の1本が1億ドル超え、もう1本が5000万ドル超えという記録はこれまでになかったことだ。

『バービー』©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

 かたやファミリー層を視野に入れたコメディ映画、かたや“原爆の父”として知られる物理学者ロバート・オッペンハイマーの伝記映画。対照的な2作の同時公開は、北米ではそれぞれのタイトルをもじり、「バーベンハイマー(Barbenheimer)」として早くから一種の社会現象となっていた。SNSではファンアートやコラージュが大量にアップされ、週末の劇場にはバービーとオッペンハイマーのコスプレをした観客が足を運んだのだ。一部では「不謹慎」との指摘もあったが、これは北米の映画ファンにとって近年稀に見る大イベントだった。

 まずは単独でも大記録を樹立した、第1位の『バービー』から見ていこう。3日間の興行収入である1億5500万ドルは、公開前の予想(9000万~1億1000万ドル)を軽々と上回るもの。『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の1億4636万ドルを抜き、2023年公開作品のオープニング成績No.1となった。

『バービー』©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

 マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリングの共演でも話題の本作は、監督・脚本を『レディ・バード』(2017年)、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019年)のグレタ・ガーウィグが担当。女性監督作品として史上最高の初動成績という歴史的記録を樹立した。ロビー&ゴズリングの出演作としても、玩具の映画化作品としても過去最高のスタートとなっている。

 さらに海外70市場でも1億8200万ドルを記録し、イギリス(2290万ドル)・メキシコ(2230万ドル)・ブラジル(1590万ドル)など各国で優れた成績を達成。そのうち55市場で週末ランキングの第1位に輝いた。アジア圏でのヒットは期待されていなかったというが、中国でも820万ドルと予想以上の滑り出しである。

 全世界累計のオープニング成績は3億3700万ドルで、女性監督作品としては『キャプテン・マーベル』(2019年)に続く歴代第2位。製作費は1億2800万~4500万ドルとあって、すでに文句なしの成績だろう。日本では8月11日に公開される。

Oppenheimer | Trailer

 続いて、第2位『Oppenheimer』の8050万ドルも、同じく事前の予想(5000万ドル前後)を大きく上回った。『バービー』との差は大きいが、R指定かつ3時間の伝記映画であること、既存のフランチャイズに頼らないオリジナル脚本であること、上映館が『バービー』より約600館少ない3610館であることを忘れてはならない。

 なにしろ、このオープニング記録は『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』や『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』、さらには『トランスフォーマー/ビースト覚醒』『ザ・フラッシュ』という名だたる人気シリーズの最新作をしのぐもの。2023年公開のR指定映画では『ジョン・ウィック:コンセクエンス』を超えて今年最高のスタートとなった。

 ポイントは、いくらクリストファー・ノーランが手がける最新作とはいえ、第二次世界大戦を背景とした地味な伝記映画にこれほどの観客が集まったことだ。ノーラン作品としても、本作は『ダークナイト ライジング』(2012年)、『ダークナイト』(2008年)に続き史上第3位の成績。キリアン・マーフィー、ロバート・ダウニー・Jr.やエミリー・ブラント、マット・デイモンほか豪華キャストが揃ってはいるが、もはやスーパーヒーロー映画と同等、あるいはそれ以上にフランクなものとして観られていることに驚くほかない。それもまた、歴史を学ぶ道筋のひとつとして受容されてしかるべきだろう。

 なお、ノーランはIMAXでの撮影・上映にこだわることで知られ、ファンもIMAXやドルビーシネマといったプレミアムラージフォーマット(PLF)での鑑賞に注目する。『Oppenheimer』では北米初動興収の47%がIMAX上映の興行収入で、ノーラン&ユニバーサル・ピクチャーズ史上最高の成績を達成した。

 海外78市場では9365万ドルを記録し、世界累計のオープニング成績は1億7415万ドル。製作費は1億ドルなので、劇場公開での回収も十分視野に入っている。残念ながら日本公開は未定だが、なるべく早期の実現を祈りたい。

 かくして、「バーベンハイマー」は2作あわせて北米で2億3555万ドル、世界で5億1115万ドルを稼ぎ出した。どちらも公開前から高評価で、Rotten Tomatoesでは『バービー』が批評家・観客ともに90%フレッシュ、『Oppenheimer』も批評家・観客ともに94%フレッシュを記録。出口調査に基づくCinemaScoreではどちらも「A」評価だった。

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