『忌怪島/きかいじま』に感じた新たなホラーの可能性 恐怖要素“リミナルスペース”の機能

『忌怪島/きかいじま』新たなホラーの可能性

 『呪怨』シリーズ、ハリウッド版『THE JUON/呪怨』シリーズなどで世界を震撼させ、『リング』シリーズの中田秀夫とともに「Jホラー」の代表的存在として知られる、清水崇監督。近年はとくに日本の心霊スポットなどを題材にした<恐怖の村>シリーズが話題を集めている。そんな清水監督が、その取り組みを一歩進めた、新たな試みとして提出した恐怖映画が『忌怪島/きかいじま』である。

 本作『忌怪島/きかいじま』は、予告編や宣伝の展開からも分かるように、ホラー映画を求める若い世代を中心に製作されていると思われるが、同時に「Jホラー」を楽しんできた上の世代にとっては、また別の楽しみ方ができると同時に、新たなホラーの可能性も感じさせるといった、多面的な内容となっている。

 ここでは、そんな本作の試みを振り返りながら、どこに興味深い点が存在するのかを考えていきたい。

忌怪島/きかいじま

 舞台となるのは、沖縄の離島の一つと思われる小さな島だ。南国の美しいビーチが広がり、リゾートとして楽しめそうな場所だが、「ユタ」と呼ばれる霊媒師が存在し、村の人々から頼りにされているように、古い風習や民間信仰が残っている土地でもある。

 主人公の片岡友彦(なにわ男子・西畑大吾)は、そんな島をデータ上のバーチャル空間として再現し、VRを用いて体験や記憶を共有するという、最新鋭の研究をおこなっている。脳科学とコンピューターに精通している友彦は、実際の島に集った研究チームと合流し、さらに実験を進めようとする。

 しかし、研究にかかわった者や島の住人たちに、相次いで不気味な出来事が起こったり、赤い服を着た女がバーチャル世界や現実にも姿を現して危害を与えようとするなど、超自然的な脅威が迫り始める。ユタの話では、島で非業の死を遂げた「イマジョ」と呼ばれる女の霊がかかわっているという。友彦は、父の死をきっかけに島を訪れた園田環(山本美月)らとともに、戦慄の真相を探っていく。

忌怪島/きかいじま

 興味深いのは、怪異という古くから語り継がれるような事柄と、バーチャル体験という新しい技術を関連づけている点である。これは、「Jホラー」の代表的位置付けである、鈴木光司原作、中田秀夫監督の『リング』(1988年)の設定である、ビデオテープやテレビという電子機器に怨念が介在するといった発想に近しいものがある。

 われわれもゲーム作品などで体験できるように、データ上にかたち作られるバーチャル空間は、より精細で現実的なものとして日々進化していっている。とくに最近のリアルタイムグラフィック技術は、数十億ポリゴンのデータを取り込めるようになり、CGが描く世界が、いよいよ実写映像と区別がつかなくなってしまっている。

 ここまでになってくると、人々は現実の世界よりも非現実の方に魅力を感じかねない。スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』(2018年)の描いた未来のように、理想の姿を自分の「アバター」に設定して、VRゴーグルで味わう世界の中で、いつまでも永遠に過ごしていたいと思うのではないか。もしそうなら、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)で示されたように、デジタルに変換された情報体としてデータの世界に旅立ち、肉体を捨てた方がいいと考えてしまう人間が相当数出てくるのかもしれない。

忌怪島/きかいじま

 そんなことができるのならば、そのような存在はまさしく幽霊(Ghost)だといえるのではないだろうか。そして、魂だけといえる者たちが生きるデータの世界は、もはや「あの世」だと表現できるかもしれない。そう考えれば、ユーザーたちが現実に身体を残している現行のバーチャル世界、オンラインゲームなどの空間は、“生き霊”が存在する場所といえる。それはやはり、「Jホラー」の一角であり、黒沢清監督が『リング』を意識して撮っていたという『回路』(2001年)における、インターネットと幽霊の関係とも重ねることができる。

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