『あなたがしてくれなくても』橋と坂道はみちの人生を描いていた 痛みを伴った4人の成長

『あなたがしてくれなくても』4人の成長

 放送のたび、多くの議論の種を提供した『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)が、最終回を迎えた。「離婚」を選択した2組の夫婦だったが、結局ラストは、みち(奈緒)と陽一(永山瑛太)が、ともに歩く姿が映し出された。これにはさまざまな意見が向けられたが、振り返ってみるに、本作は、みちにとっての人生の橋と坂道を描いていた。

割り切れない感情を知り、吐き出せるようになった誠

 本作は、結婚して数年、安定したつもりになっていた時期に、大きなうねりと向き合うことになった2組の夫婦の姿を見つめ続けた。建設会社で働くOL・みちと、みちと離婚することになったカフェ店長の陽一、みちと夫婦の問題を相談し合ううちに惹かれ合っていった元上司の新名誠(岩田剛典)と、ファッション誌の編集に心血を注いできたが、その結果、誠から離婚を言い渡された楓(田中みな実)。それぞれに痛みを伴った4人だったが、必要な時間だったと考えたい。

 完璧主義の誠には、自分で自分をがんじがらめにしていたところがあったように思う。(誠の目には)父の犠牲者のように映った、母とは違う楓に惹かれ、彼女を支えて生きていきたいと結婚するも、自らの決心に縛られてきた。誠のみちへの思いは本物だっただろうが、それとは別に、楓とは遅かれ早かれ亀裂が生じていたはず。みちが、陽一を思い続けていたことにも、誠はずっと気づいていたように感じる。社員研修旅行の際の、「涙の意味は分かっている」発言も、最後の水族館でのみちへの告白のときも、誠には結果が見えていた。それでも、「誠はもっと自分を出さないと」と楓が言うように、これまでは強い意志を持ちながら、ずっと内にため込んできていた。その誠が、理性では抑え込めないような思いも外へと吐き出せるようになったのは、みちとの出会いがあったからだ。

柔らかさを得て、真にかっこよくなった楓

 楓も変わった。誠は「楓は変わらなくていい」と言っていたが、実際には、とても柔らかくなった。それは何も、ファッション誌編集から子育て誌の編集へと担当を変わったからだけじゃない。楓は誠の大きな支えに甘え、働く自分に自信を持ってきた。しかし、仕事に執着するあまり、周りも、自分自身のことも見えなくなっていた。ある時から自分のキャパシティをとうに超えていたというのに。今回、唯一、浮気はしていなかった楓だが、完全な犠牲者というわけではなく、特に前半の彼女の言動は余裕がなかったからとはいえ、誉められたものではなかった。しかし、離婚が、また担当雑誌が変わることが、決まって以降の彼女は、みちの言葉ではないが、本当にカッコよかった。それは、ファッション誌で働いていたときの、いっぱいっぱいの状態のピリピリした感じとは全く違う、柔らかさを得た真のかっこよさだった。

 最終話ラストで、楓は誠に「戦友」になることを呼びかけたが、もし今後も付き合いを続けるなら、この2人には、文字通りの「男女にも友情は成り立つ」ことを証明してもらいたい。誠には母の言葉を胸に二人三脚で歩める女性を見つけてほしい。そして楓には仕事に生きる女性の美しさを見せつけながら、かっこよく進んでいってもらいたい。

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