『あなたがしてくれなくても』橋と坂道はみちの人生を描いていた 痛みを伴った4人の成長
みちのことを最初から最後まで好きだった陽一
みちが陽一といわゆる“元サヤ”を選んだ結果になったとき、「なんで?」「陽ちゃんは変わらないよ」「また同じことになる」「問題は解決されていないのに」といった声が溢れた。しかし個人的には、本作でもっとも成長したのは陽一だったと思っている。みちは「陽ちゃんは自分のことが好きなんだよ」「陽ちゃんの中には私がいない」と言っていたが、そうだろうか。陽一は、みちだから、ここまで苦しみ、悩んでいたのではないだろうか。みちが陽一のことを許してくれるから、みちが母親のようだから、保護者を失いたくないから、みちを好きなんだと言う人もいるだろう。しかし、陽一は心からみちのことが好きだったように思う。
カフェのオーナー(宇野祥平)の真似をしてマンションを買おうとした際にも、単純だと批判を浴びたが、あのときも、陽一の耳には「高い“ラブレター”だよ」の言葉が残ったのだと思った。陽一は、レスには悩んでいたが、みちのことは、最初から最後まで好きだった。だから離婚前に誠と会った際も言わず、発表会で誠の姿を認めても、みちは誠と来たのだろうと、そのまま去った。みちと離れた今は、あれだけ四六時中やっていたゲームをやめて甥っ子と影絵をしている。発表会に現れた陽一を見つけた甥っ子姪っ子の様子からは、良好な関係が伝わった。カフェも独立しようと実際に動くなど、確実に変化していた。
ふたたび立ち上がり陽一と手を繋いで歩いていくみち
そして本作の主人公みち。彼女の選択には多くの疑問の声があがった。でもみちは、“弱さ”や“リアルさ”をさらけ出しながら、強くなっていく様を見せてくれた。みちはしばしば「私は卑怯者だ」と口にしていた。誠と惹かれ合っていたときにも、胸の奥には陽ちゃんがいることを、おそらく感じていた。後輩の華(武田玲奈)から「浮気なんて現実逃避以外なくないですか?」と陽一の浮気に対して指摘を受けたときも、みちは「浮気は現実逃避」との理論はそのまま受け入れた。誠のことを好きだと感じた瞬間もあっただろう。しかし、それはレスからの現実逃避の先にあったものだった。みちは、ずっと陽一のことが好きだった。
そして、本作を通して印象的だったのが、橋と坂道の登場だった。誠とは、橋の上で落ち合い、言葉を交わし、別れていく。第10話で資格試験の勉強に意識が向かっている際には、同僚でなくなった2人は橋の上に向かうことすらなく、歩道橋を歩き、別れた。最終話にはふたたび橋が登場するが、その上に残ったのは誠ひとり。みちは橋の手前で別れた。
陽一とは、第1話から坂道でのシーンがしばしば登場した。そしてそれはほぼ下り坂だった。第5話で甥っ子姪っ子たちと一緒に歩くシーンのみ4人で上っていたが、2人になった帰り道は下っていた。ほかのシーンも、みちはとにかく下ってばかりいた。しかしラストのみちは、晴れた青空をバックに、大きな荷物を抱えながら坂を上っていた。そこに陽一が追い付く。ジャンケンをしながら追い越し追い越され、ときに肩車し、歩いていく。そして一旦腰を降ろし、ゆっくり優しいキスをして、ふたたび立ち上がり手を繋いで歩いていった。
根本的な問題は解決されていない。浮気云々ではない。子どもはどうするのか。陽一が、子どもは欲しくないと思ったその理由は? 2人で向き合わなければならない。また坂を下ることもあるはずだ。でも、互いの大切さや、思いを伝えることの大事さを確認したこの時間があったからこその、2人のこれからを信じたい。
■放送情報
木曜劇場『あなたがしてくれなくても 特別編』
フジテレビ系にて、6月29日(木) 22:00~22:54放送
出演:奈緒、岩田剛典、田中みな実、永山瑛太、さとうほなみ、武田玲奈、宇野祥平、MEGUMI、大塚寧々ほか
原作:ハルノ晴『あなたがしてくれなくても』(双葉社)
脚本:市川貴幸、おかざきさとこ、黒田狭
演出:西谷弘
プロデュース:三竿玲子
主題歌:稲葉浩志「Stray Hearts」(VERMILLION RECORDS)
挿入歌:稲葉浩志「ダンスはうまく踊れない」(VERMILLION RECORDS)
音楽:菅野祐悟
©︎フジテレビ
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