『らんまん』志尊淳の思いがあふれた満月の夜 百人一首に託されたタキと寿恵子の心情

『らんまん』志尊淳の思いがあふれた満月の夜

 『らんまん』(NHK総合)第59話では、タキ(松坂慶子)と寿恵子(浜辺美波)の対決に注目が集まった。峰屋の嫁の座をかけた百人一首対決はタキが札を連取。対する寿恵子は序盤こそやや緊張気味だったが、万太郎(神木隆之介)と視線を交わし、落ち着きを取り戻す。同時に手を伸ばした札をタキに譲った。次なる一首では、札を取ろうとしたタキが体勢を崩してしまう。気丈に振る舞うタキだったが、勝負は打ち止めとなった。

「人とは違う道を己の道と定めた孫ではございますけんど、どうか末永うよろしゅうお頼申します」

 勝負を通じて寿恵子の人柄に触れたタキは、あらためて万太郎と夫婦になることを認めた。百人一首で取り上げられたのは、小式部内侍、紀貫之、伊勢大輔、山部赤人の和歌だった。和泉式部を母に持ち、母の代作と陰口を叩かれていた小式部内侍が、人々の前で即興で詠んだ1首目は道の遠さを含意している。『土佐日記』で有名な紀貫之と伊勢大輔の2首は花や故郷にちなんだ本作らしいセレクト。その紀貫之が「歌聖」と称賛した山部赤人の一首は、互いを認め合った寿恵子とタキが日本一の山をともに仰ぎ見るような感慨を抱かせる。和歌に託した心情描写で、槙野家の一員になるプロセスを表現した。

 万太郎の祝儀も重なって、二重の喜びに包まれた甑倒しの宴。盛り上がる峰屋の人々から一人離れ、綾(佐久間由衣)は夜空を見上げる。今年も無事に仕込みを終えることができた。安堵と不安、一抹の寂しさ。そこに竹雄(志尊淳)がやってくる。

「心支度をせんといかんろう。この先は一人っきりになるがじゃ。私が一人、この峰屋を守るがじゃき」と綾はつぶやく。そう遠くない未来にタキはいなくなる。税金の取り立てなど酒蔵をめぐる状況は厳しくなる一方だ。責任の重さを綾はずっしりと受け止めていた。

 こんなことをこぼせるのは相手が竹雄だからだ。番頭の息子で気心の知れた竹雄なら、余計な心配をかけることもない。そのくらいの割り切りで、過度に人に期待しない綾らしさが出ているのだが、もどかしいのは竹雄の方である。伝えたいことは山ほどあるが、それらを目いっぱい吟味し、そしゃくした後、言葉を選んで一個ずつ吐き出した。

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