『【推しの子】』は“オタク”になぜ刺さるのか 他人事ではいられない“熱狂”の描き方

 アイドルの内幕を描いたアニメ『【推しの子】』に注目が集まっているが、一度でも何かに熱狂したことがある“オタク”にとっては、他人事ではいられない作品である。

【推しの子】第八話『初めて』WEB予告

 本作はアクアこと星野愛久愛海が、母親で人気アイドルだった星野アイの仇を打つために芸能界で奔走する物語だ。

 アクアは前世の記憶を持つ転生者で、前世はアイの熱狂的なオタクで産婦人科医のゴローだった。アイの極秘出産に立ち会うことになったゴローは出産直前に何者かに殺され命を落とすが、なぜかアイが出産した双子の赤ん坊の一人・アクアとして生まれ変わる。

 そして同じく転生者だった双子の妹・ルビー(瑠美衣)とともにアイを見守る幸せな幼年時代を過ごすが、熱狂的なファンに刺されてアイは命を落としてしまう。それから十数年後、高校生に成長したアクアは、アイ殺害を裏で仕組んだのが、正体のわからない自分たちの父親ではないかと疑い、生前にアイと交流のあった芸能関係者に接近するため、タレントとして配信ドラマやリアリティショーに出演するようになる。一方、ルビーも母の後を継ぐかのように、アイドルとしてデビューするための準備を始める。

 作品全体を貫く物語は母親を殺した犯人を探すアクアの復讐譚だが、各エピソードは、ドラマ撮影や恋愛リアリティショーといった番組の内幕を様々な角度から見せていく芸能界追体験モノとなっている。

 本作は、仕事量のわりに安い給料や芸能人としての地位の低さといった、アイドルの身も蓋もない現実を露悪的に突きつけてくるアニメだが、何より本質を掴んでいると感じるのは、アクアたち若手芸能人が置かれている立場の描き方だ。それが最も強く表れていたのが恋愛リアリティショー編である。

 劇中では番組内で目立とうと競い合う出演者の若者たちと、番組を面白くしようと裏で演出を施すディレクターやカメラマンたち大人の作り手たち、そして番組を観てSNSで一喜一憂する視聴者たちという三者の立場が描かれる。そんな中、目立とうと焦った黒川あかねが鷲見ゆきの顔を傷つけてしまったことでSNSは炎上。視聴者によるあかねへの罵詈雑言が溢れかえる。

 黒川の炎上を鎮めるため、アクアは出演者の仲の良さをアピールする動画を作ろうと考える。そのために番組ディレクターに番組映像を提供してほしいと要求するのだが、黒川の炎上は自己責任で、お互いプロで仕事でやっていることだと言って拒まれてしまう。だが、アクアは出演者は未成年だと主張し「大人がガキ、守らなくてどうすんだよ」と言う。

 その後、ディレクターは「言えてるなあ」と納得して映像を提供するのだが、一見対立しているように見えるディレクターやプロデューサーたちはアクアたちの敵ではなく「仕事上の立場や役割が違うだけだ」というのが、本作の一貫したスタンスだ。つまり、大人と子供は敵対関係ではなく「いっしょに作品を作り上げる仲間だ」と描いているのだ。それは共演するアクアたち若手タレントも同様である。出演者として誰が一番目立つかという勝負はしていても、同じ番組を作るために協力し合う仲間だという意識が何よりも高い。だから黒川が炎上したときも、みんなで助け合おうとする。

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